市場原理


社会的に嫌われている職業がある。トレーダーもそうかもしれないが、転売屋はそれ以上に嫌われている。私としては、転売行為というのは個人ビジネス以外の何物でもないと思うのだが……。

よく言われているのは、転売屋がいなければ、メーカーからファンに正規の値段で売られるから、ファンの利益が守られるというもの。だが、経済学的に考えると、それは効率的ではない。もしも転売屋がいなければ、限定品はファンの間で抽選になってしまう。例えば、5000円のチケットに、5000円まで出してもいい普通のファンと、1万円まで出してもいい熱心なファンがいたとしても、抽選になってしまう。これは非効率的で不公平である。しかし、転売屋がネットオークションにチケットを出品すれば、1万円まで出してもいい熱心なファンがチケットを買える。転売屋のお蔭で、価格によってファンの差別化が行われる。熱心なファンほど欲しいものを買えるという、効率的で公平な市場が作り出されるのだ。

そして、誰もこの取引で損はしていない。転売屋に正規価格で売ったメーカーも、チケットを転売して5000円の利ざやを得た転売屋も、転売屋から10000円でチケットを買った熱心なファンも、全員がこの取引から利益を得ている。そもそも、市場で行われるあらゆる取引は、双方に利益があるから行われる。双方に利益がない取引は絶対に行われない。確かに、消費者側・供給者側のどちらかに利益が偏っている場合はあるだろうが、双方が取引から利益を得ているのは間違いない。

つまり、転売は、社会に利益をもたらしているビジネスなのだ。転売屋がいるからこそ、熱心なファンはチケットを確実に入手出来る。転売屋は、市場原理に基づいた立派な職業なのである。

メーカーも本音では、転売屋について何とも思ってないと思う。だって、ファンに売ろうが転売屋に売ろうが、利益は利益、カネはカネなのだから。そもそも、限定版商法をしているメーカーはどうなんだというのもあるわけで……。だから、メーカーが転売対策をしているのは、あくまでファンに対するイメージアップ戦略に過ぎない。むしろ、そうやって転売屋を排除するコストを負担しているのは誰かと言うと……。

あと一つ、メーカー価格で買いたいのに中々買えないというのは、そのコンテンツの市場価値がそれだけあるということ。そもそも、同じ限定品であったとしても、超人気のコンテンツが普通のコンテンツと同じ価格で簡単に買えると思うこと自体が間違ってる。超人気があるコンテンツなのに供給が限られていたら、市場価格は上がっていく。にも関わらず、メーカーは市場価格よりも圧倒的に安い価格で売るんだから、ファンが殺到して競争になるのは当たり前。それで買えなかったファンは転売屋に責任転嫁するかもしれないが、超人気コンテンツの限定品が普通の価格で売られていたら、そもそも簡単に買えるはずがないのだ。たくさんのファンがその手頃な価格で買いたいと思ってるんだから、転売屋がいようがいまいが、買いにくいのは同じこと。数が限られている超人気コンテンツを普通の価格で買おうとする以上、買い手の間で競争になるのはしょうがない。

まあ、百歩譲って転売屋が悪だとしよう。では、その悪が蔓延る原因を作っているのは誰か?それは、市場価格で売らないメーカーである。メーカーが市場価格で売らないから、転売屋が利ざやを稼ぐ機会が生まれてしまう。

しかし、超人気コンテンツの限定品を市場価格で売り出したら、メーカー価格の数倍になってしまう。市場原理からすると当然の現象なのだが、メーカーのイメージダウンに繋がることはほぼ間違いない。だから、メーカーが市場価格で売り出すことは出来ない。ここに、悪が付け入る隙が生まれる。もしも、社会が効率的・合理的に運営されてたら、悪が付け入る隙なんてのは生まれない。社会の集合知が低いから、悪が生きていく術が生まれる。悪を淘汰するには、社会全体の集合知を上げるしかないのだ。