概要
※最終更新日時:2025年7月15日
※網羅範囲:2017年1月試験~2025年5月試験
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ライフプランニング
ライフプランニングでは、年金計算の問題が出題されます。
年金計算は、老齢給付(老齢基礎年金、老齢厚生年金)、遺族給付(遺族基礎年金、遺族厚生年金)、障害給付(障害基礎年金、障害厚生年金)のいずれかの問題が出題されます。
2020年以降の出題傾向は次の通りです。
- 老齢給付:2020年1月、2020年9月、2021年5月、2021年9月、2022年1月、2022年9月、2023年5月、2023年9月、2024年5月、2025年1月、2025年5月
- 遺族給付:2021年1月、2022年5月、2023年1月、2024年9月
- 障害給付:2024年1月
老齢給付と遺族給付については必ず押さえておくことが必要です。
障害給付も出題される場合があるため、余裕があったら抑えておきましょう。
必ずマスターしておくべき問題
- 老齢給付:2021年5月(基本問題)、2025年1月(全額免除)、2024年5月(全額免除2)、2023年5月(繰上げ受給他)、2025年5月(在職老齢年金)
- 遺族給付:2021年1月(基本パターン1)、2022年5月(基本パターン2)、2024年9月(老齢厚生年金との併給)
- 障害給付:2024年1月
老齢給付
老齢給付では、老齢基礎年金と老齢厚生年金の計算問題が出題されます。年金計算では最も出題されやすい分野のため、必ず押さえておきましょう。
近年は難易度が上昇しており、年金の原理原則を理解していないと解けない問題が頻出となっています。
基本計算はもちろん、年金受給月数について、老齢厚生年金における加給年金の判定、繰上げ受給・繰下げ受給、在職老齢年金による支給停止についても押さえておいてください。
老齢基礎年金
まずは、老齢基礎年金からです。
- 老齢基礎年金=831,700円×$\frac{保険料納付済期間}{480月}$
上記の「831,700円」は2025年基準となっています(2024年度は816,000円)。より詳しくは、780,900円に改定率を乗じて算出されます。
この値は毎年変動するため、注意してください。詳しくは、毎年1月に発表される厚生労働省の「令和○年度の年金額改定について」という資料をググって参照するなどしてください(月額×12となります)。
試験の法令基準日に該当する基礎年金額(2025年度は831,700円)は必ず暗記しておいてください。
続いて、「保険料納付済期間」についてです。
簡単に言うと、次の式で求められます。
- 保険料納付済期間=国民年金加入期間+厚生年金加入期間
基礎年金の保険料納付済期間は、20歳0ヶ月から59歳11ヶ月までの合計480月が対象となります。
就職後、現在まで厚生年金に加入している場合には、次の2通りで算出できます。
- 480月-国民年金に加入していない月数
※任意加入期間の分を追納していた場合は月数を引かない。学生納付特例期間があっても追納していなければ反映しない。 - 65歳まで厚生年金に加入していた場合:厚生年金加入月数-60月(※1)+国民年金の追納分
※1:60歳0ヶ月~64歳11ヶ月までの分。20歳以前の加入歴があるなら追加で引く。
参照する箇所は、最初の問題文にある「公的年金の加入歴」と、年金計算の問題文の資料にある「厚生年金保険の被保険者期間」です。
2025年5月試験の場合には、次の2か所を参照します。
- 公的年金の加入歴
〈Aさんとその家族に関する資料〉
(1) Aさん(本人)
・1961年11月20日生まれ
・公的年金の加入歴
1981年11月から1984年3月までの大学生であった期間(29月)は国民年金に任意加入していない。
1984年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
- 厚生年金保険の被保険者期間
(1) 厚生年金保険の被保険者期間(65歳到達時)
・総報酬制導入前の被保険者期間:228月
・総報酬制導入後の被保険者期間:283月
保険料納付済期間は、次のどちらで計算しても、451月となります。
- 480月-国民年金に加入していない月数=480月-29月=451月
- 厚生年金加入月数-60月=(228月+283月)-60月=451月
よって、
- 老齢基礎年金=831,700円×$\frac{451月}{480月}$=781,451.458円→781,451円
以上が、老齢基礎年金の最も基本的な解法パターンとなります。
なお、任意加入期間の分を追納している場合には、反映される点に注意しておきましょう。
続いて、国民年金免除期間の反映についてです。2024年5月試験から出題されるようになっています。
厳密には、次のようになっています。
| 2009年3月以前 | 2009年4月以降 | |
| 保険料納付済 | 1 | 1 |
| 4分の1免除 | 6分の5 | 8分の7 |
| 半額免除 | 6分の4 | 8分の6 |
| 4分の3免除 | 6分の3 | 8分の5 |
| 全額免除 | 6分の2(3分の1) | 8分の4(2分の1) |
ここで覚えておかなければいけないのが、全額免除のパターンです。2009年3月以前は3分の1の反映でしたが、2009年4月以降は2分の1反映されるようになりました(イチローが決勝タイムリーを打った第2回WBC(2009年3月)前後で変わったと暗記しましょう)。
4分の3免除、半額免除、4分の1免除については、今後出題される可能性はありますが、FP実務でもあまり使う機会はないと思われるため、特に覚える必要はないかと思います。2009年3月以前は6分率、2009年4月以降は8分率と覚えておけば導けます。
2025年1月試験では、次のようになっています。
- 公的年金の加入歴
(1) Aさん(本人)
・1961年10月8日生まれ
・公的年金の加入歴
1981年10月から1984年3月までの大学生であった期間(30月)は国民年金に任意加入していない。
1984年4月から2009年6月まで厚生年金保険の被保険者である。
2009年7月から2011年6月まで国民年金の第1号被保険者であり、この間(24月)は申請により保険料全額免除の適用を受けている(追納はしていない)。
2011年7月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である。
- 厚生年金保険の被保険者期間(65歳到達時)
(1) 厚生年金保険の被保険者期間
・総報酬制導入前の被保険者期間 : 228月
・総報酬制導入後の被保険者期間 : 258月
保険料納付済期間の合計は次のようになります(老齢基礎年金の計算は省略)。
- 国民年金加入期間:24月×$\frac{1}{2}$=12月
- 厚生年金加入期間:(228月+258月)-60月=426月
- 合計=12月+426月=438月
この問題では、国民年金加入期間の全額免除は、2009年4月以降のため2分の1とします。
2024年5月試験は、やや複雑です。
- 公的年金の加入歴
(1) Aさん(本人)
・1965年4月28日生まれ
・公的年金の加入歴
1984年4月から1990年3月まで厚生年金保険の被保険者である。
1990年4月から2000年3月まで国民年金の第1号被保険者である。1990年4月から1991年3月までは申請により保険料全額免除の適用を受けている(追納はしていない)が、1991年4月から2000年3月までは保険料を納付している(付加保険料は納付していない)。
2000年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である。
- 厚生年金保険の被保険者期間(65歳到達時)
(1) 厚生年金保険の被保険者期間
・総報酬制導入前の被保険者期間 : 108月
・総報酬制導入後の被保険者期間 : 324月
保険料納付済期間の合計は次のようになります(老齢基礎年金の計算は省略)。
- 国民年金加入期間:108月+12月×$\frac{1}{3}$=112月
- 厚生年金加入期間:(108月+324月)-60月-12月=360月
- 合計=112月+360月=472月
この問題では、国民年金加入期間10年間のうち、1年間は2009年3月以前の全額免除のため3分の1とします。
また、20歳以前の厚生年金加入期間(合算対象期間)も引く必要があります。
基礎年金に反映されるのは、20歳0ヶ月からの分であるため、1965年4月28日生まれのAさんの場合には満20歳となる1985年4月分から反映されます。よって、1984年4月から1985年3月までの12ヶ月は合算対象期間となり基礎年金には反映されません。
より厳密には、次のようになります。
※基礎年金対象期間:1985年4月~2025年3月(480月)
-1985年4月~1990年3月:厚生年金(60月)
-1990年4月~1991年3月:国民年金・全額免除(4月)
-1991年4月~2000年3月:国民年金(108月)
-2000年4月~2025年3月:厚生年金(300月)
2024年5月試験は、老齢基礎年金では最難関の問題となります。通常の老齢基礎年金の問題では、ここまで深掘りする必要はありません。
老齢厚生年金
老齢厚生年金の額は次のようになります。
- 老齢厚生年金の基本年金額=報酬比例部分+経過的加算額
- 加給年金支給時=基本年金額+加給年金額
「報酬比例部分」「経過的加算額」の計算に加えて、「加給年金」の判定が論点となります。
それぞれについて解説していきます。
- 報酬比例部分=A+B
- A=平均報酬月額×$\frac{7.125}{1000}$×2003年3月以前の被保険者月数
- B=平均報酬月額×$\frac{5.481}{1000}$×2003年4月以降の被保険者月数
報酬比例部分の計算は、単なる四則演算のため特に注意点はありません。給付乗率(7.125、5.481)についても毎回明示されるため、特に覚えなくても問題ないでしょう(新乗率を使うという点だけ覚えておいてください)。
- 経過的加算額=1,734円×厚生年金保険の被保険者期間の月数(※最高480月)-831,700円×$\frac{20歳以上60歳未満の厚生年金保険の被保険者期間の月数}{480月}$
経過的加算額では、「前半部分は最高480月として計算する」「前半後半のいずれも厚生年金保険の被保険者期間のみを対象とする」という2点を覚えておいてください。
なお、「1,734円」は2025年度分の額で毎年変動します(2024年度分は1,701円)。ただ、この部分は毎回問題で明示されるため、特に覚えておく必要もないかと思います。「831,700円」は基礎年金の額で毎年変動します。
- 加給年金=415,900円(2025年度分)
加給年金の額は毎年変動しますが、毎回明示されるため、特に覚える必要はありません。
難しいのは、加給年金の支給条件の判定です。老齢厚生年金の難易度は、加給年金の判定が全てと言っても過言ではありません。
一言で言うと、「配偶者が65歳未満で、厚生年金期間20年以上の特別支給の老齢厚生年金を受給していないときに支給される」となります。
配偶者が厚生年金の被保険者期間20年以上であっても、特別支給の老齢厚生年金の受給条件を満たしていなければ、加入年金の条件を満たすことになります。
特別支給の老齢厚生年金の支給条件は次の通りです。
| 男性 | 女性 | |
| 支給されない | 1961.4.2~ | 1966.4.2~ |
| 64歳から支給 | 1959.4.2~1961.4.1 | 1964.4.2~1966.4.1 |
| 63歳から支給 | 1957.4.2~1959.4.1 | 1962.4.2~1964.4.1 |
| 62歳から支給 | 1955.4.2~1957.4.1 | 1960.4.2~1962.4.1 |
| 61歳から支給 | 1953.4.2~1955.4.1 | 1958.4.2~1960.4.1 |
学科でも重要な知識となりますが、特に女性については必ず覚えておくようにしてください。
また、繰上げ受給時には加入年金は支給されません。
加入年金の判定については、とにかく問題を解くしかないかと思います。
それでは、実際の問題を解いてみましょう。
2021年5月試験となります(数値は2025年基準に変更)。
(1) Aさん(本人)
・1965年11月5日生まれ
・公的年金の加入歴
1985年11月から1988年3月までの大学生であった期間(29月)は国民年金に任意加入していない。
1988年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である(過去に厚生年金基金の加入期間はない)。(2) Bさん(妻)
・1967年6月21日生まれ
・公的年金の加入歴
1986年4月から1991年4月まで厚生年金保険の被保険者である。
1991年5月から現在に至るまで国民年金の第3号被保険者である。
〈条件〉
(1) 厚生年金保険の被保険者期間
・総報酬制導入前の被保険者期間:180月
・総報酬制導入後の被保険者期間:331月(65歳到達時点)(2) 平均標準報酬月額および平均標準報酬額
・総報酬制導入前の平均標準報酬月額:36万円
・総報酬制導入後の平均標準報酬額 :55万円(3) 報酬比例部分の給付乗率
・総報酬制導入前の乗率:1,000分の7.125
・総報酬制導入後の乗率:1,000分の5.481(4) 経過的加算額
1,734円×被保険者期間の月数-□□□円×(1961年4月以後で20歳以上60歳未満の厚生年金保険の被保険者期間の月数/加入可能年数×12)
※「□□□」は、問題の性質上、伏せてある。(5) 加給年金額
41万5,900円(要件を満たしている場合のみ加算すること)
まず、報酬比例部分を求めます。
- 報酬比例部分=A+B
- A=36万円×$\frac{7.125}{1000}$×108月=277,020円
- B=55万円×$\frac{5.481}{1000}$×324月=976,714.2円
- 合計=277,020円+976,714.2円=1,253,734.2円→1,253,734円
次に、経過的加算額を求めます。
- 経過的加算額=1,734円×480月-831,700円×$\frac{451月}{480月}$=50,868.54円→50,869円
厚生年金被保険者期間の合計は180月+331月=511月ですが、前半の式では最大480月となります。後半の式の分子は、180月+331月-60月=451月となります。
※なお、この問題では、経過的加算額で控除する式の値は、老齢基礎年金と同じ額となっています。任意加入を追納していない場合には、このようになる場合が多くなりますが、「経過的加算額で控除する式=老齢基礎年金の額」と覚えないようにしてください!2023年5月試験のように、多くの罠に引っ掛かります。原則で覚えるようにしてください。
以上から、老齢厚生年金の基本年金額=1,253,734円+50,869円=1,304,603円
最後に、加給年金の判定となります。
Aさんは1965年11月5日生まれで、配偶者のBさんは1967年6月21日生まれです。Aさんが65歳になるとき(2030年11月)、Bさんは63歳と65歳未満のため、加給年金は支給されます(Bさんは厚生年金の加入年数が20年未満です)。
よって、1,304,603円+415,900円=1,720,503円
2021年5月試験は、老齢厚生年金において非常にシンプルな問題ですが、近年はこのような素直な問題が出題されることはまずありません。
ただ、老齢厚生年金について、ベースの理解はこれで十分です。
続いて、2024年5月試験を見てみましょう(数値は2025年基準に変更)。
(1) Aさん(本人)
・1965年4月28日生まれ
・公的年金の加入歴
1984年4月から1990年3月まで厚生年金保険の被保険者である。
1990年4月から2000年3月まで国民年金の第1号被保険者である。1990年4月から1991年3月までは申請により保険料全額免除の適用を受けている(追納はしていない)が、1991年4月から2000年3月までは保険料を納付している(付加保険料は納付していない)。
2000年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である。(2) Bさん(妻)
・1967年11月10日生まれ
・公的年金の加入歴
1986年4月から2020年3月まで厚生年金保険の被保険者である。
2020年4月から現在に至るまで国民年金の第3号被保険者である。
<条件〉
(1) 厚生年金保険の被保険者期間
・総報酬制導入前の被保険者期間 : 108月
・総報酬制導入後の被保険者期間 : 324月
(2) 平均標準報酬月額および平均標準報酬額
(65歳到達時点、2023年度再評価率による額)
・総報酬制導入前の平均標準報酬月額 : 22万円
・総報酬制導入後の平均標準報酬額 : 45万円
(3) 報酬比例部分の給付乗率
・総報酬制導入前の乗率 : 1,000分の7.125
・総報酬制導入後の乗率 : 1,000分の5.481
(4) 経過的加算額
1,734円×被保険者期間の月数-□□□円×(1961年4月以後で20歳以上60歳未満の厚生年金保険の被保険者期間の月数÷480)
※「□□□」は、問題の性質上、伏せてある。
(5) 加給年金額
41万5,900円(要件を満たしている場合のみ加算すること)
まず、報酬比例部分を求めます。
- 報酬比例部分=A+B
- A=22万円×$\frac{7.125}{1000}$×108月=169,290円
- B=45万円×$\frac{5.481}{1000}$×324月=799,129.8円
- 合計=169,290円+799,129.8円=968,419.8円→968,420円
次に、経過的加算額を求めます。
- 経過的加算額=1,734円×432月-831,700円×$\frac{360月}{480月}$=125,313円
この問題では、老齢基礎年金の保険料納付済期間は次のようになっています。
- 国民年金加入期間:108月+12月×$\frac{1}{3}$=112月
- 厚生年金加入期間:(108月+324月)-60月-12月=360月
- 合計=112月+360月=472月
経過的加算額の計算で控除する式の分子については、「20歳以上60歳未満の厚生年金保険の被保険者期間の月数」のため、厚生年金の合計432月から60歳超の60月、20歳未満の12月を引いた360月となります。
以上から、老齢厚生年金の基本年金額=968,420円+125,313円=1,093,733円
最後に、加給年金の判定です。
Aさんは1965年4月28日生まれで、配偶者のBさんは1967年11月10日生まれです。Aさんが65歳になるとき(2030年4月)、Bさんは62歳となります。Bさんは厚生年金の被保険者期間が20年以上ありますが、1967年11月10日生まれで、特別支給の老齢厚生年金は支給されないため、加給年金は支給されます。
よって、1,093,733円+415,900円=1,509,633円
繰上げ受給・繰下げ受給
学科でも必須となる繰上げ受給・繰下げ受給についても確実に理解しておきましょう。
繰上げ受給は、1962年4月1日以前生まれなら「0.5%×繰上げ月数」、1962年4月2日以降生まれなら「0.4%×繰上げ月数」だけ減額されます。
繰下げ受給は、「0.7%×繰下げ月数」分だけ増額されます。
繰上げ受給・繰下げ受給で対象となるのは、次の通りです。
- 老齢基礎年金:全額 ※振替加算は対象外
- 老齢厚生年金:報酬比例部分+経過的加算額 ※加給年金は対象外
加給年金の扱いには注意しておきましょう。
-繰上げ受給では加給年金は加算されません。
-繰下げ受給の場合に加算される場合には、加入年金以外の部分が増額となってから、加入年金がそのまま追加されます(今後、出題される可能性があります)。
2023年5月試験では、繰上げ受給が出題されました。2023年5月試験は、合格率3%を叩きだした悪名高い試験ですが、年金理解の原則に立ち返られないと解けない良問となっています。必ず解法をマスターするようにしておきましょう。
条件分は次の通りです。
(1) Aさん(本人)
・1963年11月25日生まれ
・公的年金の加入歴
1983年11月から1986年3月までの大学生であった期間(29月)は国民年金に任意加入し、保険料を納付している(付加保険料は納付していない)。
1986年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。(2) Bさん(妻)
・1967年8月16日生まれ
・公的年金の加入歴
1987年8月から1990年3月までの大学生であった期間(32月)は国民年金に任意加入していない。
1990年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
問題文は次のようになっています(数値は2025年基準に変更)。
問53》 Aさんが、X社を定年退職し、再就職せずに2023年12月に公的年金の老齢給付の繰上げ支給を請求した場合、繰上げ請求時におけるAさんの老齢給付について、次の
①および②に答えなさい。① 繰上げ支給の老齢基礎年金の年金額はいくらか。
② 繰上げ支給の老齢厚生年金の年金額(本来水準による価額)はいくらか。
〈条件〉
(1) 厚生年金保険の被保険者期間
・総報酬制導入前の被保険者期間 : 204月
・総報酬制導入後の被保険者期間 : 248月
(2) 平均標準報酬月額および平均標準報酬額
(2023年12月時点、2022年度再評価率による額)
・総報酬制導入前の平均標準報酬月額 : 36万円
・総報酬制導入後の平均標準報酬額 : 58万円
(3) 報酬比例部分の給付乗率
・総報酬制導入前の乗率 : 1,000分の7.125
・総報酬制導入後の乗率 : 1,000分の5.481
(4) 経過的加算額
1,734円× 被保険者期間の月数 -□□□円×
1961年4月以後で20歳以上60歳未満の厚生年金保険の被保険者期間の月数÷480
※「□□□」は、問題の性質上、伏せてある。
(5) 加給年金額
41万5,900円(要件を満たしている場合のみ加算すること)
まず初めに、繰上げ受給の減額割合を求めていきます。
Aさんは1963年11月25日生まれです。1962年4月2日以降生まれのため「0.4%×繰上げ月数」だけ減額されることになります。
次に、繰上げ月数を求めます。
問題では「2023年12月に公的年金の老齢給付の繰上げ支給を請求した場合」とあります。
ここで重要なのは、基礎年金は20歳0ヶ月~59歳11ヶ月までの480ヶ月が対象になるということです。その上で、60歳0ヶ月から繰上げ受給可能となります。
1963年11月生まれのAさんの場合には、満60歳0ヶ月となる2023年11月から繰り上げ受給が可能となり、2023年12月は60歳1ヶ月となります。
よって、繰上げ受給月数は59ヶ月となります。
※この回では、当時多くの受験生が60ヶ月と回答してしまったものと思われます。
よって、繰上げ受給の減額率=-0.4%×59月=-23.6%=76.4%(×0.764)
あとは、この減額率を乗じていくだけです。
まず、老齢基礎年金を求めていきましょう。
- 老齢基礎年金=831,700円×$\frac{451月+29月}{480月}$=831,700円
今回はAさんが60歳0ヶ月となる2023年11月分も払っているため、厚生年金加入月数は204+248-1=451月となります。その上で、国民年金の任意加入期間の29月について保険料を納付していると出ているため、加入期間に加算します。
この金額が繰上げ受給によって減額されるため、
- 繰上げ支給の老齢基礎年金=831,700円×76.4%=635,418.8円→635,419円
続いて、老齢厚生年金を求めていきましょう。
まず、報酬比例部分を求めます。
- 報酬比例部分=A+B
- A=36万円×$\frac{7.125}{1000}$×192月=492,480円
- B=58万円×$\frac{5.481}{1000}$×260月=826,534.8円
- 合計=492,480円+826,534.8円=1,319,014.8円→1,319,015円
次に、経過的加算額を求めます。
- 経過的加算額=1,734円×452月-831,700円×$\frac{451月}{480月}$=2,316.5円→2,317円
経過的加算額で控除する式の分子は、厚生年金加入月数は204+248-1=451月となります。今回の厚生年金の加入月数は、60歳0ヶ月までとなっているためです。
以上から、老齢厚生年金の基本年金額=1,319,015円+2,317円=1,321,332円
この金額が繰上げ受給によって減額されるため、
- 繰上げ支給の老齢厚生年金=1,321,332円×76.4%=1,009,497.648円→1,009,498円
繰上げ受給のため、加給年金は加算されません。
在職老齢年金
老齢厚生年金については、在職老齢年金による支給停止の額が求められるパターンもたびたび出題されています。
在職老齢年金は、次の式を満たした場合に報酬比例部分が支給停止となります。
- (標準報酬月額+$\frac{標準賞与額}{12月}$)+$\frac{老齢厚生年金の報酬比例部分}{12月}$>51万円(2025年基準額)
その上で、支給停止額は次の通りです。
- 支給停止額(月額)=超過額÷2
- 支給停止額(年額)=超過額÷2×12ヶ月
在職老齢年金の基準額については、毎年変わっています(2025年は51万円、2024年は50万円、2026年からは62万円に大幅増)。
それでは、実際の問題として、2025年5月試験を解いてみましょう(数値は2025年基準に変更)。
65歳時の在職老齢年金による支給調整後の老齢厚生年金の年金額(本来水準による価額)を求める問題です。
(1) Aさん(本人)
・1961年11月20日生まれ
・公的年金の加入歴
1981年11月から1984年3月までの大学生であった期間(29月)は国民年金に任意加入していない。
1984年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
(2) Bさん(妻)
・1972年10月21日生まれ
・公的年金の加入歴
1992年10月から1995年3月までの大学生であった期間(30月)は国民年金の第1号被保険者として保険料を納付している(付加保険料は納付していない)。
1995年4月から2002年3月まで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
2002年4月から現在に至るまで国民年金の第3号被保険者である。
〈条件〉
(1) 厚生年金保険の被保険者期間(65歳到達時)
・総報酬制導入前の被保険者期間:228月
・総報酬制導入後の被保険者期間:283月
(2) 平均標準報酬月額および平均標準報酬額
(65歳到達時、2024年度再評価率による額)
・総報酬制導入前の平均標準報酬月額:380,000円
・総報酬制導入後の平均標準報酬額 :490,000円
(3) 報酬比例部分の給付乗率
・総報酬制導入前の乗率:1,000分の7.125
・総報酬制導入後の乗率:1,000分の5.481
(4) 経過的加算額
1,734円× 被保険者期間の月数 -□□□円×
1961年4月以後で20歳以上60歳未満の
厚生年金保険の被保険者期間の月数÷480
※「□□□」は、問題の性質上、伏せてある。
(5) 加給年金額
415,900円(要件を満たしている場合のみ加算すること)
(6) 総報酬月額相当額
530,000円
まず、いつも通りに、老齢厚生年金の額を求めていきます。
報酬比例部分を求めます。
- 報酬比例部分=A+B
- A=38万円×$\frac{7.125}{1000}$×228月=617,310円
- B=49万円×$\frac{5.481}{1000}$×283月=760,050円
- 合計=617,310円+760,050円=1,377,360円
次に、経過的加算額を求めます。
- 経過的加算額=1,734円×480月-831,700円×$\frac{451月}{480月}$=50,868.5円→50,869円
以上から、老齢厚生年金の基本年金額=1,377,360円+50,869円=1,428,229円
加給年金の判定:Aさんは1961年11月20日生まれで、配偶者のBさんは1972年10月21日生まれです。Aさんが65歳になるとき(2026年11月)、Bさんは54歳となります。配偶者が65歳未満であり、被保険者期間20年以上の特別支給の老齢厚生年金が支給されないため、加給年金は支給されます。
よって、
- 老齢厚生年金=1,428,229円+415,900円=1,844,129円
在職老齢年金による支給停止額を求めていきます。
- 報酬比例部分の月額=1,377,360円÷12ヶ月=114,780円
- 114,780円+530,000円=644,780円
- 支給停止額=(644,780円-510,000円)÷2×12ヶ月=808,680円
以上から
- 在職老齢年金による支給調整後の老齢厚生年金=1,844,129円-808,680円=1,035,449円
なお、特別支給の老齢厚生年金については、高年齢雇用継続基本給付金または高年齢再就職給付金が支給される場合、在職老齢年金の支給調整に加えて、標準報酬月額の最大6%が支給停止になる点についても押さえておくようにしましょう。
遺族給付
遺族給付では、遺族厚生年金の計算が確実に出題され、セットで遺族基礎年金か老齢厚生年金との併給の問題が出題されます。
遺族厚生年金は短期要件・長期要件の判定が論点となります。
老齢厚生年金との併給は最初は理解が難しいですが、理解してしまえば単純です。
老齢給付に次いで出題されやすい分野となっているため、必ず理解しておきましょう。
遺族基礎年金
遺族基礎年金の額と支給条件について押さえておきましょう。
- 遺族基礎年金=831,700円+子の加算額
※子の加算額:1~2人目239,300円、3人目以降79,800円
基本額は老齢基礎年金と同額となり、毎年変動します。子の加算額についても変動します。いずれの値についても必ず暗記しておいてください。
遺族基礎年金の支給条件は、「子のある配偶者」もしくは「子」がいる場合です。子の定義は、18歳到達年度末(高校3年生までの子)、障害等級1~2級で20歳未満です。
2022年5月試験において、遺族基礎年金の額を求めてみましょう(数値は2025年基準)。
Aさんが2022年5月22日に亡くなった場合の遺族基礎年金の額を求める問題です。
(1)Aさん(本人)
・1970年10月12日生まれ
(2)Bさん(妻)
・1974年12月17日生まれ
(3)Cさん(長女、高校3年生、2004年8月8日生まれ)
(4)Dさん(長男、高校1年生、2006年10月19日生まれ)
(5)Eさん(二男、中学2年生、2008年7月15日生まれ)※妻Bさん、長女Cさん、長男Dさん、二男Eさんは、Aさんと同居し、現在および将来においても、Aさんと生計維持関係にあるものとする。
※家族全員、現在および将来においても、公的年金制度における障害等級に該当する障害の状態にないものとする。
- 遺族基礎年金=831,700円+239,300円+239,300円+79,800円=1,390,100円
子の定義は「18歳到達年度末(高校3年生までの子)」と覚えておき、子の加算額について暗記しておけば、問題なく解けます。
遺族厚生年金
遺族給付においては、遺族厚生年金が問題の本体です。
短期要件と長期要件の判定が、最大の論点となります。
遺族厚生年金の支給額は、短期要件・長期要件で次のようになります。
- 遺族厚生年金(短期要件)=報酬比例部分×$\frac{3}{4}$×みなし300月調整
- 遺族厚生年金(長期要件)=報酬比例部分×$\frac{3}{4}$
※遺族厚生年金については、「4分の3」か「3分の2」か暗記する際に迷うかと思いますが、”電卓で小数計算できる(×0.75)”と覚えるのがよいかと思います。そのため、「4分の3」ではなくて「×0.75」と覚えた方がいいかもしれません。
みなし300月計算とは、厚生年金の加入月数が300月未満の場合に300月として計算するものです。例えば、250月の場合には、$\frac{300}{250}$を乗じます。
短期要件と長期要件の判定は次の優先順位に基づいて行います。1~3に当てはまるなら短期要件です。
- (短期要件)現在も厚生年金に加入していること。
- (短期要件)被保険者であったときに初診日がある傷病により、初診日から5年以内に死亡
- (短期要件)障害厚生年金1~2級の受給権者が死亡
- (長期要件)保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が25年以上ある者が死亡
一言で言うと、「現在も厚生年金に加入している場合は短期要件、それ以外は長期要件」となります。
最後に、中高齢寡婦加算の判定についても重要な論点となります。中高齢寡婦加算の額(2025年度623,800円)については明示されるため覚える必要はありませんが、判定条件は必ず覚えるようにしてください。
中高齢寡婦加算の条件
- 夫死亡当時40歳以上65歳未満の妻に加算される。
- 遺族基礎年金(=高校3年生以下の子供がいれば支給)を受給していないこと。
- 長期要件では、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上あること。
問題の(1)が「遺族基礎年金の額を求めなさい」となっていれば、その時点で中高齢寡婦加算は加算されません。
また、経過的加算額の問題もかつて出題されましたが、1956年4月1日以前生まれの妻のみに支給されるため、今後は出題されることはないかと思います。
2021年1月試験において、2021年1月24日死亡時の遺族厚生年金の額を求めていきましょう(数値は2025年基準)。
(1) Aさん(本人)
・1978年7月20日生まれ
・公的年金の加入歴
1998年7月から2001年3月までの大学生であった期間(33月)は、国民年金の第1号被保険者として保険料を納付している。
・2001年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である(過去に厚生年金基金の加入期間はない)。(2) Bさん(妻)
・1982年10月15日生まれ
・公的年金の加入歴
2001年4月から2006年3月まで厚生年金保険の被保険者である。
2006年4月から現在に至るまで国民年金の第3号被保険者である。(3) Cさん(長男)
・2007年9月5日生まれ(4) Dさん(二男)
・2010年3月17日生まれ
〈条件〉
(1) 厚生年金保険の被保険者期間
・総報酬制導入前の被保険者期間 : 24月
・総報酬制導入後の被保険者期間 : 213月
(注)要件を満たしている場合、300月のみなし計算を適用すること。(2) 平均標準報酬月額・平均標準報酬額(2020年度再評価率による額)
・総報酬制導入前の平均標準報酬月額 : 21万円
・総報酬制導入後の平均標準報酬額 : 32万3,000円(3) 報酬比例部分の給付乗率
・総報酬制導入前の乗率 : 1,000分の7.125
・総報酬制導入後の乗率 : 1,000分の5.481(4) 中高齢寡婦加算額
623,800円(要件を満たしている場合のみ加算すること)
Aさんは、「2001年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である」とあるため、短期要件に該当します(みなし300月計算をします)。
報酬比例部分を求めます。
- 報酬比例部分=A+B
- A=21万円×$\frac{7.125}{1000}$×24月=35,910円
- B=323,000円×$\frac{5.481}{1000}$×213月=377,087.319円
- 合計=35,910円+377,087.319円=412,997.319円
今回は、小数点はそのままにしておくようにしましょう。この数値に、電卓で「×0.75」「×300」「÷237」とやると出ます(途中で四捨五入すると一の位の値がズレて減点を喰らう場合があります)。
=412,997.319円×$\frac{3}{4}$×$\frac{300}{237}$=392,086.06円→392,086円
中高齢寡婦加算は、死亡時に妻の年齢が38歳であるため支給されません(高校3年生以下の子供がいるため遺族基礎年金が支給される点でも支給されません)。
よって、392,086円
続いて、2022年5月試験において、2022年5月22日死亡時の遺族厚生年金の額を求めていきましょう(数値は2025年基準)。
(1)Aさん(本人)
・1970年10月12日生まれ
・公的年金の加入歴
1989年4月から2010年12月まで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
2011年1月から現在に至るまで国民年金の第1号被保険者として国民年金保険料を納付している(付加保険料は納付していない)。(2)Bさん(妻)
・1974年12月17日生まれ
・公的年金の加入歴
1993年4月から2000年3月まで厚生年金保険の被保険者である。
2000年4月から2010年12月まで国民年金の第3号被保険者である。
2011年1月から現在に至るまで国民年金の第1号被保険者として国民年金保険料を納付している(付加保険料は納付していない)。(3)Cさん(長女、高校3年生、2004年8月8日生まれ)
(4)Dさん(長男、高校1年生、2006年10月19日生まれ)
(5)Eさん(二男、中学2年生、2008年7月15日生まれ)
〈条件〉
(1) 厚生年金保険の被保険者期間
・総報酬制導入前の被保険者期間 : 168月
・総報酬制導入後の被保険者期間 : 93月
(注)要件を満たしている場合、300月のみなし計算を適用すること。
(2) 平均標準報酬月額・平均標準報酬額(2021年度再評価率による額)
・総報酬制導入前の平均標準報酬月額 : 240,000円
・総報酬制導入後の平均標準報酬額 : 300,000円
(3) 乗率
・総報酬制導入前の乗率 : 1,000分の7.125
・総報酬制導入後の乗率 : 1,000分の5.481
(4) 中高齢寡婦加算額
623,800円(要件を満たしている場合のみ加算すること)
Aさんは、「2011年1月から現在に至るまで国民年金の第1号被保険者として国民年金保険料を納付している」とあり、厚生年金被保険者ではないため、長期要件となります。
報酬比例部分を求めます。
- 報酬比例部分=A+B
- A=24万円×$\frac{7.125}{1000}$×168月=287,280円
- B=30万円×$\frac{5.481}{1000}$×93月=152,919.9円
- 合計=287,280円+152,919.9円=440,199.9円
この数値に、電卓で「×0.75」と計算しましょう。なお、今回は長期要件のため、みなし300月計算はしません。
- 440,199.9円×$\frac{3}{4}$=586,933.2円→586,933円
中高齢寡婦加算は、死亡時に妻の年齢が48歳ですが、高校3年生以下の子供がいて遺族基礎年金が支給されるため支給されません。
よって、586,933円
老齢厚生年金との併給
遺族に、遺族厚生年金と老齢厚生年金が支給される場合、次の内、多い額が支給されます。
- 遺族厚生年金の額
- 遺族厚生年金×$\frac{2}{3}$+老齢厚生年金(加給年金を除く)×$\frac{1}{2}$
ただ、支給額は↑の通りなんですが、老齢厚生年金は全額支給され、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額が支給停止となります。
これは初見では意味が分からないかと思うのです(私は分かりませんでした)が、学科でも時々出題される知識のため、噛み砕いて理解しておきましょう。
例えば、遺族の妻に支給されている老齢厚生年金が40万円、遺族厚生年金が75万円だとします。
このとき、遺族厚生年金=75万円、遺族厚生年金×$\frac{2}{3}$+老齢厚生年金×$\frac{1}{2}$=50万円+20万円=70万円より、支給額は前者の75万円となります。
これはあくまで全体の支給額を決めるための計算であり、実際の支給額75万円は、老齢厚生年金40万円+遺族厚生年金35万円となります(遺族厚生年金は老齢厚生年金の分だけ支給停止となる)。
それでは、実際の問題を解いていきましょう。
2024年9月試験の問題です(数値は2025年基準)。
(1) Aさん(本人)
・1959年9月3日生まれ
・公的年金の加入歴
1979年9月から1982年3月までの大学生であった期間(31月)は国民年金に任意加入していない。
1982年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。(2) Bさん(妻)
・1959年6月21日生まれ
・公的年金の加入歴
1979年6月から1982年3月までの大学生であった期間(34月)は国民年金に任意加入し、保険料を納付している(付加保険料は納付していない)。
1982年4月から2019年6月まで厚生年金保険の被保険者である(厚生年金基金の加入期間はない)。
《問53》 Aさんが現時点(2024年9月8日)で死亡し、妻Bさんが遺族厚生年金の受給権を取得した場合、Aさんの死亡時における妻Bさんの遺族厚生年金について、遺族厚生年金として実際に支給される額(支給停止分が控除された後の額)を求めなさい。
〈条件〉
(1) 厚生年金保険の被保険者期間
・総報酬制導入前の被保険者期間 : 252月
・総報酬制導入後の被保険者期間 : 257月
(2) 平均標準報酬月額および平均標準報酬額(2024年度再評価率による額)
・総報酬制導入前の平均標準報酬月額 : 300,000円
・総報酬制導入後の平均標準報酬額 : 580,000円
(3) 報酬比例部分の給付乗率
・総報酬制導入前の乗率 : 1,000分の7.125
・総報酬制導入後の乗率 : 1,000分の5.481
(4) 中高齢寡婦加算額
623,800円(要件を満たしている場合のみ加算すること)
(5) 妻Bさんの年金額
(65歳到達時点、2024年度価額)
・老齢厚生年金
基本年金額(報酬比例部分の額+経過的加算額): 900,000円
・老齢基礎年金の額 : 816,000円
まず、遺族厚生年金の額を求めます。
今回は、Aさんは「1982年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である」ため短期要件に該当しますが、そもそも厚生年金保険の被保険者期間が300月を超えており、みなし300月計算をする必要がないため、特に影響はありません。
報酬比例部分を求めます。
- 報酬比例部分=A+B
- A=30万円×$\frac{7.125}{1000}$×252月=538,650円
- B=58万円×$\frac{5.481}{1000}$×257月=816,997.86円
- 合計=538,650円+816,997.86円=1,355,647.86円
この数値に電卓で「×0.75」と計算して、
- 1,355,647.86円×0.75=1,016,735.895円→1,016,736円
中高齢寡婦加算については、死亡時点で妻が65歳のため加算されません。
よって、遺族老齢年金の額=1,016,736円
続いて、支給停止額を求めていきます。
全体の支給額は、次の2つの内の多い方となります。
- 遺族厚生年金の額=1,016,736円
- 遺族厚生年金×$\frac{2}{3}$+老齢厚生年金(加給年金を除く)×$\frac{1}{2}$
=1,016,736円×$\frac{2}{3}$+900,000円×$\frac{1}{2}$
=677,824円+450,000円
=1,127,824円
全体の支給額は、1,127,824円です。
支給される遺族厚生年金の額は、全体の支給額のうち老齢厚生年金の分だけ支給停止となるため、
- 支給される遺族厚生年金の額=1,127,824円-900,000円=227,824円
遺族生活者支援給付金
生活者支援給付金については、遺族給付で出題される可能性があります。
生活者支援給付金の額は、老齢・遺族・障害の全てで、5,450円(※2025年月額)です。この額は毎年変動するため注意しておいてください(2025年:5,450円、2024年:5,310円)。
よって、遺族生活者支援給付金の年額は、5,450円×12ヶ月=65,400円
出題されたらボーナス問題となるため、必ず暗記しておきましょう。
障害給付
障害給付はほとんど出題されませんが、2024年1月に出題実績があるため、余裕があったら抑えておきましょう。
基本的な計算式は、遺族給付とほとんど変わりません。
障害基礎年金
障害基礎年金の額は次の通りです。
- 障害基礎年金=831,700円+子の加算額
※子の加算額:1~2人目239,300円、3人目以降79,800円
※障害等級1級の場合は、ベース額を1.25倍してから、子の加算額を加える。
基本額は老齢基礎年金と同額となり毎年変動します。子の加算額についても変動します。遺族基礎年金とほぼ同じです。いずれの値についても必ず暗記しておいてください。
ただ、障害等級1級の場合は、ベース額を1.25倍してから、子の加算額を加えます。
2024年5月の問題を解いてみましょう(数値は2025年基準)。
次の条件において、2024年1月28日において、障害等級1級の障害基礎年金の額を求める問題です。
(1) Aさん(本人)
・1988年11月17日生まれ
・公的年金の加入歴
2007年4月から2021年3月までの期間(168月)は、厚生年金保険の被保険者である(過去に厚生年金基金の加入期間はない)。
2021年4月から2022年12月までの期間(21月)は、国民年金の第1号被保険者として保険料を納付している。
2023年1月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である。(2) Bさん(妻)
・1988年7月6日生まれ
・公的年金の加入歴
2007年4月から現在に至るまで厚生年金保険の被保険者である。
(3) Cさん(長男)
・2015年9月5日生まれ
(4) Dさん(二男)
・2020年3月17日生まれ
※妻Bさん、長男Cさんおよび二男Dさんは、Aさんと同居し、Aさんによって生計を維持されているものとする。
※妻Bさん、長男Cさんおよび二男Dさんは、現在および将来においても、公的年金制度における障害等級に該当する障害の状態にないものとする。
- 障害基礎年金=831,700円×1.25+239,300円+239,300円=1,518,225円
子の年齢については、2024年1月28日時点では、Cさんが8歳、Dさんが3歳であり、いずれも高校3年生以下のため追加されます。
Aさんは障害等級1級のため、ベースとなる年金額を1.25倍した上で、子の加算額を加算します。
障害厚生年金
障害厚生年金については、次の式で求めます。
- 障害厚生年金=報酬比例部分×みなし300月計算
※障害等級1級と2級には加給年金が追加される(65歳未満の配偶者がいるとき)。
※障害等級1級の場合は、ベース額を1.25倍してから、加給年金を加える。
それでは、2024年1月試験を解いてみましょう。
2024年1月28日時点での障害厚生年金の額です。
(2) Bさん(妻)
・1988年7月6日生まれ
<条件〉
(1) 厚生年金保険の被保険者期間
・総報酬制導入後の被保険者期間:180月
(2) 平均標準報酬額(2023年度再評価率による額)
・総報酬制導入後の平均標準報酬額:40万円
(3) 報酬比例部分の給付乗率
・総報酬制導入前の乗率:1,000分の7.125
・総報酬制導入後の乗率:1,000分の5.481
(4) 加給年金額(要件を満たしている場合のみ加算すること)239300円
まず、報酬比例部分を求めます。
- 報酬比例部分=A+B
- A=0円
- B=40万円×$\frac{5.481}{1000}$×180月=394,632円
- 合計=394,632円
なお、今回は「総報酬制導入後」の報酬しかない点に注意が必要です。
- 障害厚生年金=394,632円×$\frac{300}{180}$×1.25+239,300円=1,061,450円
報酬比例部分をみなし300月計算し、Aさんは障害等級1級のため1.25倍し、妻Bさんは35歳(65歳未満)のため加給年金が加算されます。
障害補償年金
2024年1月試験では、障害補償年金についても出題されました。
障害等級1級に該当する障害補償年金の額は次のようになります。
- 障害補償年金(障害等級1級)=給付基礎日額×313日×労災保険と公的年金の調整率
実際に出題された問題の条件を見てみましょう。
(6) 給付基礎日額
1万4,000円
〈資料〉労災保険と公的年金の調整率(一部抜粋)
労災保険/公的年金 障害厚生年金および障害基礎年金 障害厚生年金 障害基礎年金 障害補償年金 0.73 0.83 0.88
- 障害補償年金=14,000円×313日×0.73=3,198,860円
障害等級1級に該当する障害補償年金の給付基礎日額は最大313日となります。
労災保険と公的年金の調整率は、Aさんは障害厚生年金と障害基礎年金を受給しているため0.73です。
なお、これは障害給付の知識として覚えておく必要がありますが、2024年1月にタイムリーにこの問題に遭遇した場合には捨て問となっていました(313日は学科でも出題されないため初見殺しの問題です)。
金融資産運用
金融資産運用では、ROEやインタレスト・カバレッジ・レシオなどの指標計算、ポートフォリオの標準偏差、損益分岐点比率、外貨建て債券の利回り計算が出題されます。
いずれも解法パターンを理解すれば、確実に得点できるため、しっかりと身に付けておきましょう。
2020年以降の出題傾向は次の通りです。
- 指標計算:毎回
- ポートフォリオの標準偏差:2020年1月、2021年1月、2022年5月、2023年9月、2024年1月、2024年9月、2025年5月
- 損益分岐点比率:2020年9月、2021年9月、2023年1月、2025年1月
- 外貨建て債券の利回り計算:2020年9月、2023年1月
指標計算とポートフォリオの標準偏差については確実に解けるようにしておきましょう。
必ずマスターしておくべき問題
- 指標計算:2020年1月(基本問題)、2025年5月(流動比率・固定長期適合率)、2023年9月(負債比率)
- ポートフォリオの標準偏差:2023年9月(相関係数・共分散)、2025年5月(シナリオ)、2024年1月(応用問題)
- 損益分岐点比率:2021年9月(基本問題)、2023年1月(応用問題)
- 外貨建て債券の利回り計算:2023年1月
指標計算
指標計算では、財務諸表から指標を導き出す問題がほぼ確実に出題されます。
学科とも共通する部分が多いため、確実に抑えておきましょう。
金融資産運用の計算問題は、小数点以下第3位を四捨五入する点に注意が必要です。特に、20.000%の場合には、20.00%となります。
今回は、2025年5月試験の値を参考に解説していきます。

多くの指標計算で用いる「自己資本」と「事業利益」について完璧に求められるようにしておいてください。
- 事業利益
=営業利益+受取利息+受取配当金+有価証券利息+持分法による投資利益
=51,200(営業利益)+350(受取利息)+500(受取配当金)
=52,050
事業利益の計算では、営業利益に、営業外収益の当該項目を加算します。営業外収益については、多くの場合「受取利息」「受取配当」しか表示されていませんが、極たまに「有価証券利息」「持分法による投資利益」が入っている場合もあるため注意が必要です。
※「為替利益」は事業利益には含まれないため注意しておきましょう。
- 自己資本
=株主資本+その他の包括利益累計額=426,200+23,800=450,000
=純資産-新株予約権-非支配株主持分=451,200-1,200=450,000
自己資本は、純資産の部の「株主資本+その他の包括利益累計額」もしくは「純資産-新株予約権-非支配株主持分」で求められます。
どちらの方法で求めても構わないので、好きな方で求めるようにしましょう。本番試験では、得意な方で求めてから、もう一つの方で検算するようにすれば確実です。
※なお、これ以降は、「株主資本+その他の包括利益累計額」で求めるようにしています。
ROE(自己資本当期純利益率)
まずはROE(自己資本当期純利益率)です。
ROEとは一言で言うと、「株主のお金で、いかに儲けを出したか」という指標です。
- ROE
=$\frac{当期純利益率}{自己資本}$×100
=$\frac{親会社に帰属する当期純利益}{株主資本+その他の包括利益累計額}$×100
=$\frac{37,080}{426,200+23,800}$×100
=$\frac{37,080}{450,000}$×100
=8.24%
ROEは3指標に分解できます。
- ROE
=売上高純利益率×総資本回転率×財務レバレッジ
=$\frac{当期純利益}{売上高}$×$\frac{売上高}{総資産}$×$\frac{総資産}{自己資本}$
=$\frac{37,080}{509,000}$×$\frac{509,000}{573,200}$×$\frac{573,200}{37,080}$
ROEの3指標分解は指標名が問われるケースもあるためしっかり押さえておきましょう(特に財務レバレッジ)。
ROE=$\frac{当期純利益率}{自己資本}$を押さえておけば、分数の掛け算になるため、最終的にこの二つが残ると考えると分かりやすくなります。
なお、財務レバレッジ=自己資本比率の逆数でもあるため、次の式も成り立ちます。
- ROE=売上高純利益率×総資本回転率÷自己資本比率
※簡易計算ではこれでよいが厳密には異なる。FP1級試験内での話。
サスティナブル成長率
ROEと合わせて、サスティナブル成長率も押さえておきましょう(配当性向=$\frac{配当金総額}{当期純利益}$について詳しくは後述します)。
サスティナブル成長率を一言で言うと、「儲けたお金を配当に回さずに投資すれば、どれだけ成長できるか」を示す指標です。
- サスティナブル成長率
=ROE×内部留保率
=ROE×(1-配当性向)
=8.24%×(1-0.25)
=8.24%×(0.75)
=6.18%
サスティナブル成長率の計算においては、ROE・配当性向ともに無限小数となった場合に注意が必要です。途中の計算で四捨五入してしまうと、小数第2位の値がズレる場合があるため注意しておきましょう。
例えば、ROE=8.6666666%、配当性向=25.66666666%のような場合には、分数のまま計算してください。
上式でいうと、次のような感じです(2025年試験は割り切れるため、このような計算をする必要はありません)。
- サスティナブル成長率
=ROE×(1-配当性向)
=$\frac{37,080}{450,000}$×(1-$\frac{9,270}{37,080}$)
=$\frac{37,080}{450,000}$×(1-$\frac{37,080-9,270}{37,080}$)
=$\frac{37,080}{450,000}$×$\frac{27,810}{37,080}$
=6.18%
簡易計算式は次のようになります。
- サスティナブル成長率=$\frac{当期純利益-配当金総額}{自己資本}$
使用総資本事業利益率(ROA)
使用総資本事業利益率(ROA)は、ROEとインタレスト・カバレッジ・レシオに次いで出題されやすくなっています。
ROAとは、「会社が持っている資産で、どれだけ稼げているか」を示す指標です。分子は「事業利益」「経常利益」のいずれかが使われます。
FP1級ではROAとは記述されず、「使用総資本事業利益率」と表記されます(理由は後述)。
- 使用総資本事業利益率
=$\frac{事業利益}{使用総資本}$×100
=$\frac{営業利益+受取利息+受取配当金}{総資産}$×100
=$\frac{51,200+350+500}{573,200}$×100
=$\frac{52,050}{573,200}$×100
=9.080…%
=9.08%
なお、国内基準を採用している決算投信では、ROAは「総資産経常利益率」と表記されており、ROAの分子の利益は「経常利益」を用いています。これが、FP1級試験ではROAとは表記されない理由です。
- 総資産経常利益率
=$\frac{経常利益}{総資産}$×100
=$\frac{52,130}{573,200}$×100
=9.094…%
=9.09%
この場合の計算は、単に表を参照するだけでできるため簡単です。出題される場合も穴埋めでしか出ません。
インタレスト・カバレッジ・レシオ
インタレスト・カバレッジ・レシオは、ROEと並んでほぼ毎回出題されます。
インタレスト・カバレッジ・レシオを一言で説明すると、「利子を何倍払えるほど稼いでいるか」を示す指標です。
- インタレスト・カバレッジ・レシオ
=$\frac{事業利益}{金融費用}$
=$\frac{営業利益+受取利息+受取配当金}{金融費用}$
=$\frac{営業利益+受取利息+受取配当金}{支払利息および割引料+社債利息}$
=$\frac{51,200+350+500}{320}$
=$\frac{52,050}{320}$
=162.65625
=162.66倍
「事業利益」については、ROE・ROAで解説したため省略します。基本的には「営業利益」「受取利息」「受取配当金」ですが、極たまに「有価証券利息」「持分法による投資利益」が入っている場合には加算する必要があります(「為替利益」は含まれないため注意!)。
金融費用は、「支払利息」「社債利息」の合計です。基本的には「支払利息」だけですが、時々「社債利息」が出る場合もあります。
当座比率・流動比率・固定比率・固定長期適合率・負債比率
「当座比率」「流動比率」「固定比率」「固定長期適合率」「負債比率」についても、出題される場合があります。
これは全て暗記するしかありません。暗記の際の要点は、分母が自己資本かどうかです。
「当座比率」と「流動比率」は、分母が「流動負債」の指標としてセットで覚えましょう。
当座比率を一言で言うと、「すぐ現金化できる資産だけで、短期の借金をどれだけ返せるか」を示す指標です。100%超が望ましく、「棚卸資産」などのすぐに現金化できない流動資産を除きます。
- 当座比率=$\frac{当座資産}{流動負債}$×100
流動比率を一言で言うと、「1年以内の短期の支払いに、どれだけ手元の資産で備えられているか」を示す指標です。200%超が望ましく、流動資産を含みます。
- 流動比率=
=$\frac{流動資産}{流動負債}$×100
=$\frac{414,000}{110,000}$×100
=376.363…%
=376.36%
「固定比率」と「固定長期適合率」は、分母が自己資本の指標としてセットで覚えましょう。
固定比率を一言で言うと、「借金に頼らず、長期の資産を賄えているか」を示す指標です。100%以下が理想です。
- 固定比率
=$\frac{固定資産}{自己資本}$×100
=$\frac{159,200}{426,200+23,800}$×100
=$\frac{159,200}{450,000}$×100
=35.377…%
=35.38%
固定長期適合率を一言で言うと、「自己資本に借金を加えた長期の資金で、長期の資産を賄えているか」を示す指標です。100%以下が理想です。固定比率の分母に、固定負債を加えたものと覚えましょう。
- 固定長期適合率
=$\frac{固定資産}{自己資本+固定負債}$×100
=$\frac{159,200}{450,000+12,000}$×100
=$\frac{159,200}{462,000}$×100
=34.458…%
=34.46%
負債比率は、「自己資本に対して、どれだけ借金してるか」を示す指標です。100%以下が理想です。
- 負債比率
=$\frac{総負債}{自己資本}$×100
=$\frac{122,000}{450,000}$×100
=27.111…%
=27.11%
配当性向
「配当性向」は、サスティナブル成長率と合わせて出題されやすくなっています。
配当性向を一言で言うと、「当期純利益から、どれだけ株主に還元したか」を示す指標です。
- 配当性向
=$\frac{年間配当金総額}{当期純利益}$×100
=$\frac{9,270}{37,080}$×100
=25.00%
配当利回り・PER・PBR
株価を含む投資指標として、「配当利回り」「PER」「PBR」も押さえておくようにしましょう。
2025年5月試験では「発行済株式数総数」「株価」が明示されていないため、2021年9月試験を参考に解説していきます。
X社の配当金総額:76,000百万円
X社の株価:3,600円
X社の発行済株式総数:800百万株X社の1株当たり年間配当金:95円
X社の資産の部合計:3,600,000百万円
X社の純資産の部合計:1,900,000百万円
X社の経常利益:370,000百万円
X社の当期純利益:188,000百万円
配当利回りを一言で言うと、「今の株価で買ったら、どれだけの配当金を貰えるか」を示す指標です。FP1級では出題されませんが、配当利回り3%を超える銘柄は「高配当銘柄」などと呼ばれます(基準として覚えておくと間違いに気付きやすくなります。配当利回りが10%を超えるようなことは、2021年夏以降の商船三井や日本郵船のような超例外を除いてまずあり得ません)。
- 配当利回り
=$\frac{1株あたり年間配当金}{株価}$×100
=$\frac{95円}{3,600円}$×100
=2.638…%
=2.64%
なお、この問題では「1株あたり年間配当金」が明示されていますが、1株あたり年間配当金=$\frac{配当金総額}{発行済株式総数}$=$\frac{76,000百万円}{800百万株}$=95円でも求められます。
PER(株価収益率)を一言で言うと、「利益の何年分で、現在の株価を回収できるか」を示す指標です。15倍前後が一つの目安となります。株価が上がれば上がるほど急騰していき、2025年のメタプラネットのような急騰銘柄では100倍を超えることもありますが、一般的には15倍前後です。
- PER
=$\frac{株価}{1株当たり純利益(EPS)}$
=$\frac{株価}{当期純利益÷発行済株式総数)}$
=$\frac{3,600円}{188,000百万円÷800百万株)}$
=$\frac{3,600円}{235円)}$
=15.319…倍
=15.32倍
1株当たり純利益(EPS)=$\frac{当期純利益}{発行済株式総数}$となります。
PER関連では、以下の指標も余裕があったら抑えておきましょう。
- PCFR(株価キャッシュフロー倍率)=$\frac{株価}{1株当たり当期純利益+1株当たり減価償却費}$
- 株式益回り=$\frac{1}{PER}$
- イールドスプレッド=長期国債(10年)利回り-株式益回り
株価キャッシュフロー倍率は、PERの分母に減価償却費を加えて「1株当たりキャッシュフロー」としたものです。株式益回りはPERの逆数で、イールドスプレッドは近年出題されるようになってきています。
PBR(株価純資産倍率)を一言で言うと、「会社の資産価値に比べて、株価が高いか安いか」を示す指標です。1倍のときに会社の解散価値と等しくなるため、1倍を超えていたら高い、1倍を下回っていたら低いとなります。
- PBR
=$\frac{株価}{1株当たり純資産(BPS)}$
=$\frac{株価}{純資産÷発行済株式総数)}$
=$\frac{3,600円}{1,900,000百万円÷800百万株}$
=$\frac{3,600円}{2,375円)}$
=1.515…倍
=1.52倍
1株当たり純資産(BPS)=$\frac{純資産}{発行済株式総数}$となります。PBRで注意が必要なのは、「総資産」ではなく「純資産」で求める点にあります。ダミー問題として多いため注意しておきましょう。
余談:FP1級試験とトレードや投資のリアル
・ROEやサスティナブル成長率の計算式には株価が含まれていないため、株価チャートを見ずにROEだけで投資してしまうと、暴騰銘柄の暴落に巻き込まれるリスクがある。
・配当を重視する投資(高配当株投資)では、配当性向はほとんど重視されず、配当利回り3%以上が目安となる(米国株では連続増配年数も)。ただし!配当利回りの分母は株価である点に要注意。配当利回りは配当金の増配だけでなく、株価暴落で上がる・株価上昇で下がるという逆張り指数的な性質があるため、マグニフィセント7のような成長株が除外されてしまう(より詳しくは、S&P500指数と配当貴族指数の長期利回りを比較してみてください。日本株では、近年は日経平均株価よりも配当指数の方が高い傾向があるが、インデックスに収束するというのがインデックス投資における一般論)。なお、かつては日産自動車が優良高配当株の代名詞だった(2019年以前)。
・PERとPBRには株価が含まれているが、PERが100倍以上になって更に急騰も、PBRが0.5倍以下で更に暴落もザラにある。
・総じて言えるのは、FP1級試験の金融資産運用の知識は、実務では全く使わない(これだけでは実際の相場には全く通用しない)ということです。ただ、教養として身に付けておくことがマイナスにならないのは言うまでもありません。
ポートフォリオの標準偏差
ポートフォリオの標準偏差を求める問題は、次の2通りのパターンで出題されます。
- 相関係数・共分散からポートフォリオの標準偏差を求める
- シナリオごとの生起確率と予想収益率からポートフォリオの標準偏差を求める
「相関係数・共分散からポートフォリオの標準偏差を求める」パターンから見ていきましょう。
2023年9月試験を例に解説していきます。
《問56》《設例》の〈投資信託Y・投資信託Zの実績収益率・標準偏差・相関係数〉に基づいて、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は表示単位の小数点以下第3位を四捨五入し、小数点以下第2位までを解答すること。
① 投資信託Yと投資信託Zの共分散はいくらか。
② 投資信託Yと投資信託Zを6:4の割合で組み入れたポートフォリオの標準偏差はいくらか。〈投資信託Yおよび投資信託Zの実績収益率・標準偏差・相関係数〉
実績収益率 標準偏差 投資信託Yと投資信託Zの相関係数 投資信託Y 4.20% 12.50% 0.70 投資信託Z 7.00% 15.00%
標準偏差・相関係数・共分散には次のような関係があります。
- 相関係数=$\frac{共分散}{Yの標準偏差×Zの標準偏差}$
- 共分散=Yの標準偏差×Zの標準偏差×相関係数
よって、
- 投資信託Yと投資信託Zの共分散
=12.50×15.00×0.70
=131.25
「投資信託Yと投資信託Zを6:4の割合で組み入れたポートフォリオの標準偏差」については、組入比率をそれぞれ0.6、0.4として次のように計算します。
- ポートフォリオの分散
=(Yの標準偏差$^2$×Yの組入比率$^2$)+(Zの標準偏差$^2$×Zの組入比率$^2$)+2×Yの組入比率×Zの組入比率×共分散
=(12.50$^2$×0.6$^2$)+(15.00$^2$×0.4$^2$)+2×0.6×0.4×131.25
=56.25+36+63
=155.25 - ポートフォリオの標準偏差
=√ポートフォリオの分散
=√155.25
=12.459..%
=12.46%
ポートフォリオの分散を算出したら、電卓の√を押して、その数値の小数第三位を四捨五入して完了となります。
覚え方としては、乗法公式$(a+b)^2=a^2+2ab+b^2$をもじって、A二乗+B二乗+2ab共分散とでも覚えましょう。こちらでは組入比率も二乗します。
以上が、「相関係数・共分散からポートフォリオの標準偏差を求める」解法パターンとなりますが、そもそもこの作業は何をやっているのかが分からなくて、とっつきにくい方も少なくないかと思います(私がそうでした)。
そもそも、「ポートフォリオの標準偏差とは何か?」というと、ポートフォリオのリスクを数値化したものです。
つまり、「ポートフォリオの標準偏差を求めよ」という問題は、「ポートフォリオのリスクを数値化したものを求めよ」ということです。
※余談:ポートフォリオのリスクを標準偏差で見るのは、あくまでリスク測定の方法の一つです。月足チャートの最大ドローダウン率を見るなど、リスク測定には様々な方法があります。
例えば、オルカンこと全世界株式投信「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の日経新聞のページを見てみると、リスクが示されていますが、これは標準偏差の値です。
また、この問題は他の用語についてもとっつきにくいかと思いますが、簡単に言うと次のようなことです。
- Yの標準偏差、Zの標準偏差:その投資信託や銘柄のリスクを数値化したもの
- 相関係数:2つの変数が一緒に動く度合いを-1~1で標準化したもの
- 共分散:2つの変数が一緒に動く度合い
共分散は2つの変数が一緒に動く度合いの「絶対量」を示しているもので、相関係数は「共分散を-1~+1の範囲で標準化したもの」です。
続いて、「シナリオごとの生起確率と予想収益率からポートフォリオの標準偏差を求める」ケースを見ていきましょう。
2025年5月試験を例に解説していきます。
《問56》《設例》の〈投資信託Y・投資信託Zの予想収益率〉に基づいて、次の①および②に答えなさい。
① 投資信託Yと投資信託Zを6:4の割合で組み入れたポートフォリオの期待収益率はいくらか。
② 投資信託Yと投資信託Zを6:4の割合で組み入れたポートフォリオの標準偏差はいくらか。
生起確率 投資信託Yの予想収益率 投資信託Zの予想収益率 シナリオ1 50% 12% 8% シナリオ2 30% 6% 12% シナリオ3 20% -4% -8%
要するに、この問題は、①ではポートフォリオの期待リターンを求めて、②ではポートフォリオのリスクを求めよと言っています。
まず、①から求めていきましょう。
ポートフォリオの予想収益率は、シナリオごとの期待収益率を求めて、最後に生起確率を加重計算して求められます。②の問題で使うため、別々に計算しておくことがおすすめです。
- シナリオごとの予想収益率=投資信託Yの予想収益率×組み入れ比率+投資信託Zの予想収益率×組み入れ比率
- ポートフォリオの予想収益率=シナリオ1の予想収益率×生起確率+シナリオ2の予想収益率×生起確率+シナリオ3の予想収益率×生起確率
それでは上述の問題で求めていきましょう。
シナリオごとの期待収益率を求める。
- シナリオ1の予想収益率=12%×0.6+8%×0.4=7.2%+3.2%=10.4%
- シナリオ2の予想収益率=6%×0.6+12%×0.4=3.6%+4.8%=8.4%
- シナリオ3の予想収益率=(-4%)×0.6+(-8%)×0.4=-2.4%-3.2%=-5.6%
生起確率で加重平均して、ポートフォリオの予想収益率を求める。
- ポートフォリオの予想収益率
=10.4%×0.5+8.4%×0.3+(-5.6%)×0.2
=5.2%+2.52%-1.12%
=6.60%
※小数点第三位を四捨五入するため、「6.6%」ではなく「6.60%」となることに注意してください。
続いて、②ポートフォリオの標準偏差を求めていきましょう。
まず、ポートフォリオの分散を求めます。
- ポートフォリオの分散=(シナリオ1の予想収益率-ポートフォリオの予想収益率)$^2$×生起確率+(シナリオ2の予想収益率-ポートフォリオの予想収益率)$^2$×生起確率+(シナリオ3の予想収益率-ポートフォリオの予想収益率)$^2$×生起確率
- ポートフォリオの標準偏差=√ポートフォリオの分散
複雑なのですが、①で求めた各シナリオの予想収益率からポートフォリオの予想収益率を引いたものを二乗して、生起確率で加重平均していくということになります。こちらの計算では生起確率は二乗しません!
上述の問題に当てはめていきましょう。
- ポートフォリオの分散
=(10.4%-6.6%)$^2$×0.5+(8.4%-6.6%)$^2$×0.3+(-5.6%-6.6%)$^2$×0.2
=3.8%$^2$×0.5+1.8%$^2$×0.3+(-12.2%)$^2$×0.2
=7.22%+0.972%+29.768%
=37.96% - ポートフォリオの標準偏差
=√37.96%
=6.161…%
=6.16%
このパターンは計算が複雑になるため、計算ミスが多発しやすいですが、金財の優しさがあって、検算できます。
②でリスクを求める際には、①で求めたポートフォリオの予想収益率を引いて二乗していくわけですが、計算を簡単にするためか、小数第二位は0となることが多いです(2020年1月も2025年5月もそうなっています)。
つまり、「①のポートフォリオの予想収益率」の小数第二位が0でなかったら、計算ミスしている可能性が高いです。
2024年1月試験では、ポートフォリオの標準偏差の応用問題が出題されました。
《問56》《設例》の〈投資信託Yと投資信託Zの実績収益率・標準偏差・共分散〉に基づいて、次の①および②に答えなさい。
① 投資信託Yの標準偏差はいくらか。
② 投資信託Yと投資信託Zの相関係数はいくらか。
実績収益率 第1期 第2期 第3期 第4期 標準偏差 共分散 投資信託Y 10.00% 12.00% -4.00% 6.00% *** -12.00 投資信託Z 7.00% 4.00% 10.00% 7.00% 2.12%
投資信託Yの標準偏差は、投資信託Yの平均収益率を求める→投資信託Yの分散を求める→標準偏差を求めると計算していきます。各期を0.25として計算することがポイントです。
- 投資信託Yの平均収益率
=10.00%×0.25+12.00%×0.25+(-4.00%)×0.25+6.00%×0.25
=2.50%+3.00%-1.00%+1.50%
=6.00% - 投資信託Yの分散
=(10.00%-6.00%)$^2$×0.25+(12.00%-6.00%)$^2$×0.25+(-4.00%-6.00%)$^2$×0.25+(6.00%-6.00%)$^2$×0.25
=4.00%+9.00%+25.00%+0%
=38% - 投資信託Yの標準偏差
=√38%
=6.164…%
=6.16%
ポートフォリオの相関係数は、そのまま計算式に入れるだけで算出できます。
- ポートフォリオの相関係数
=$\frac{共分散}{Yの標準偏差×Zの標準偏差}$
=$\frac{-12.00}{6.16%×2.12%}$
=-0.918…
=-0.92
余談:FP1級応用編の計算問題はFPになるための儀式
私の専門分野は金融資産運用のため、他の領域については分かりません。ただ、少なくとも、金融資産運用の計算問題は、言わば儀式に近いというのが実態です。
ポートフォリオのリスク計算とか、実戦ではどうでもいいです。投信やETFのページを見れば、計算するまでもなく書いてあります。
そもそもリスク指標として、ポートフォリオの標準偏差より、月足チャートの最大ドローダウン率の方が有効だと私は考えています。
※投資信託の場合には、同じ指数に連動する類似ETFの月足チャートを参照する。例えば、オルカンなら【2559】、S&P500指数なら【2558】、NASDAQ100指数なら【1545】など。
私自身は、インデックス投資ではリーマンショック、レバナスでは2022年の3度の暴落をリスク管理の基準として考えるべきと思っています。
その結論として導かれるのが、「新NISA(オルカン・S&P500指数)に投じていいのは総資金の半分まで」「TQQQなどのレバナスは、NASDAQ100指数が直近高値から-20%以上暴落したときに、総資金の10%程度を目安に入る」というものです。
※注意:私はレバナスについてはFPとしては絶対に勧めません(責任が持てないため)。
新NISAでは、インフルエンサーを中心に「すぐに限度額まで埋めるべき!」と言うケースが多く、QOLを考えないアドバイスで辟易します。いざトランプ関税ショックのときなどには、逃げてしまう無責任ぶりです。
新NISAは、「毎月5万円の長期・積立・分散投資を継続して、今の楽しいことにお金を使うべき」「新NISAの最大の成功は、死ぬまで継続して、子供や孫に相続すること」といった、現実的な話はインパクトがないため、ほとんど表には出ません。
やや愚痴になりましたが、いずれにしても、FP1級の計算問題に出るようなポートフォリオのリスクを求める問題は、実戦では計算する必要すらもなく、更には使い物にもならないケースもあります。
私には金融資産運用以外の実務は分からないですが、FP1級応用編の計算問題で実生活でも役に立つのは、所得税と相続税の計算だけじゃないかと思います。
年金計算の場合は、繰下げ受給と税・社会保険料との兼ね合いが何よりも重要です。
個別株よりインデックス投資の流れが強まっている風潮からして、ROEより、インフォメーションレシオの方が重要だと思います。
リスク管理においては、資金管理やアセットアロケーションの配分、円・外貨比率の割合などが重要ですが、FP試験では一切出題されません。
例えば次のような問題が出題されたら、実戦的です。
・「総資産は次のようになっている。新NISAに費やしてよい資金額を求め、世界株投信に毎月積み立てるべき額を計算せよ」
・「新NISAのポートフォリオは次のようになっている。円・外貨比率を求めた上で、ドル円が20%円安になった場合の為替差益を求めよ」
・「アセットアロケーションは次のようになっている。米国発の経済危機が発生して、米国株指数が現在の半分になってしまった場合の、総資産額を求めよ」
少なくとも、金融資産運用については、FP1級試験では本当にどうでもいい計算をやってるとしか言いようがありません。
しかし、これらの計算問題を解かないと、念願のFP1級資格を取得できません。
FPになるための儀式だと割り切ってください。
損益分岐点比率
損益分岐点比率を求める問題では、基本的な5つの計算式をマスターしておけば、あとは一次方程式の計算問題となります。
- 限界利益率=$\frac{限界利益}{売上高}$=$\frac{売上高-変動費}{売上高}$
※限界利益率=1-変動費率 - 損益分岐点売上高=$\frac{固定費}{限界利益率}$
- 損益分岐点比率=$\frac{損益分岐点の売上高}{売上高}$×100
- 売上総利益=売上高-売上原価
- 営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費
この5つの計算式は必ず暗記しておいてください。この5つの式さえ覚えておけば、応用問題も含めて解けます。
「損益分岐点比率」を求めるには「損益分岐点売上高」を求める必要があり、「損益分岐点売上高」を求めるには「限界利益率」を求める必要があります。よって、限界利益率→損益分岐点売上高→損益分岐点比率の順に求めていきます。
そして、損益分岐点比率の問題においては、「変動費=売上原価」「固定費=販売費及び一般管理費」という条件が付きます。
- 変動費=売上原価のとき
売上総利益=売上高-売上原価より
売上総利益=売上高-変動費
変動費=売上高-売上総利益 - 固定費=販売費及び一般管理費のとき
営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費より
営業利益=売上総利益-固定費
固定費=売上総利益-営業利益 - 限界利益率=$\frac{売上高-変動費}{売上高}$=$\frac{売上総利益}{売上高}$
- 損益分岐点売上高=$\frac{売上総利益-営業利益}{限界利益率}$
「売上総利益=売上高-売上原価」「営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費」という基本的な計算式さえ覚えておけば導けるため、変形後の式は覚えておく必要はありません。
それでは、2021年9月試験の問題を解いてみましょう(必要なデータのみ抜粋して掲載しています)。
《問55》 《設例》の〈X社とY社の財務データ等〉に基づいて、X社の損益分岐点比率を求めなさい。また、変動費は売上原価に等しく、固定費は販売費及び一般管理費に等しいものとする。
X社 売上高 3,500,000百万円 売上総利益 1,015,000百万円 営業利益 380,000百万円
まずは、限界利益率を求めます。
- 限界利益率=$\frac{売上高-変動費}{売上高}$
変動費=売上原価のとき、売上総利益=売上高-売上原価より、変動費=売上高-売上総利益となるため
限界利益率
=$\frac{売上総利益}{売上高}$
=$\frac{1,015,000}{3,500,000}$
=0.29
次に、損益分岐点売上高を求めます。
- 損益分岐点売上高=$\frac{固定費}{限界利益率}$
固定費=販売費及び一般管理費のとき、営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費より、固定費=売上総利益-営業利益となるため
損益分岐点売上高
=$\frac{売上総利益-営業利益}{限界利益率}$
=$\frac{1,015,000-380,000}{0.29}$
=$\frac{635,000}{0.29}$
=2,189,655.172413793….百万円
※電卓で計算するときは、ここで出た数値をそのままにしておいて、あとは売上高で割れば損益分岐点比率が出ます。もしも損益分岐点売上高が無限小数になったような場合には四捨五入せずに、そのまま電卓で売上高で割ってください。
最後に、売上高で割って、損益分岐点比率を求めます。
- 損益分岐点比率
=$\frac{損益分岐点売上高}{売上高}$×100
=$\frac{2,189,655.172413793….}{3,500,000}$×100
=62.561
=62.56%
損益分岐点比率の問題は、基本的な5つの計算式さえ覚えておけば解けます。
2023年1月試験では、応用問題が出題されました。
《問55》 《設例》の〈財務データ等〉に基づいて、次の①および②に答えなさい。また、変動費は売上原価に等しく、固定費は販売費及び一般管理費に等しいものとする。
① X社の当期の変動費率が変わらずに売上高が10%少なくなった場合の営業利益はいくらか。
② X社の損益分岐点売上高はいくらか。
X社 売上高 2,800,000百万円 売上総利益 770,000百万円 営業利益 176,000百万円
①が難題ですが、方程式の問題として解くことが可能です。
この問題では、「営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費」より、次の式が成り立ちます(販売費及び一般管理費=固定費)。
- X社の変動費率が変わらずに売上高が10%少なくなった場合の営業利益=売上高が10%少なくなった場合の売上総利益-固定費 …(1)
長くなるため、「X社の変動費率が変わらずに売上高が10%少なくなった場合の営業利益」をA、「X社の変動費率が変わらずに売上高が10%少なくなった場合の売上総利益」をBとします。
- A=B-固定費
このとき、B=売上高が10%少なくなった場合の売上高-売上高が10%少なくなった場合の売上原価(=売上高が10%少なくなった場合の変動費)となります。
つまり、次の値を求めれば、この問題を解くことができます。
- 売上高が10%少なくなった場合の売上高
- 売上高が10%少なくなった場合の変動費
- 固定費
(1)「売上高が10%少なくなった場合の売上高」は次の通りです。
- 売上高が10%少なくなった場合の売上高=2,800,000百万円×90%=2,520,000
(2)「売上高が10%少なくなった場合の変動費」を求めるために、X社の変動費率を求めます。
- 変動費率=$\frac{変動費}{売上高}$
変動費=売上原価のとき、売上総利益=売上高-売上原価より、変動費=売上高-売上総利益となるため
変動費率
=$\frac{売上高-売上総利益}{売上高}$
=$\frac{2,800,000-770,000}{2,800,000}$
=0.725
問題では「X社の変動費率が変わらずに売上高が10%少なくなった」となっているため、
- 売上高が10%少なくなった場合の変動費
=売上高が10%少なくなった場合の売上高×変動費率
=2,520,000×0.725
=1,827,000
(3)「固定費」は、売上高の変動で減らないため変わりません。
- 固定費=販売費及び一般管理費のとき、営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費より、
固定費=売上総利益-営業利益=770,000-176,000=594,000 …(C)
以上から、
- X社の変動費率が変わらずに売上高が10%少なくなった場合の売上総利益
=売上高が10%少なくなった場合の売上高-変動費
=2,520,000-1,827,000
=693,000 - X社の変動費率が変わらずに売上高が10%少なくなった場合の営業利益
=売上高が10%少なくなった場合の売上総利益-固定費
=693,000-594,000
=99,000百万円
外貨建て債券の利回り計算
外貨建て債券の利回り計算は、時々出題されます。
計算自体は簡単ですが、外貨貯金の利回りとの違いを理解しておくことがポイントです。
まずは、2023年1月試験をもとに、解法を見ていきましょう。
《問56》 《設例》の〈米ドル建債券の概要〉の条件で、為替予約を付けずに円貨を外貨に交換して当該債券を購入し、1年6カ月後に売却して、売却金額と3回分の利子を
まとめて円貨に交換した場合における所有期間利回り(単利による年換算)を求めなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は表示単位の小数点以下第3位を四捨五入
し、 小数点以下第2位までを解答すること。また、1年6カ月は1.5年として計算し、税金等は考慮しないものとする。〈米ドル建債券の概要〉
・利率(年率):4.5%(米ドルベース、年2回利払)
・残存期間 :5年
・単価(額面100米ドル当たり)および適用為替レート(米ドル/円)
単価 TTS TTM TTB 購入時 98.25米ドル 148.00円 147.00円 146.00円 売却時 102.50米ドル 142.00円 141.00円 140.00円
米ドル債券を100ドル分購入したとして計算していきます。
100ドル分を円建てで買うために必要な金額は、購入時のTTSを乗じます。
※額面金額は100ドルですが、単価は98.25ドルとなります。外貨建て債券と外貨預金とでは、この違いが出てきます。計算自体はシンプルなため、解法さえ理解しておけば問題ありませんが、違和感があるとしたらここだと思います。
- 円建ての購入金額:98.25ドル×148.00円=14,541円
1年6ヶ月保有したことにより、額面金額100ドルに対して4.5%の利子が付きます。
※利子の計算では額面金額を使います。
- 利子:100ドル×4.5%×1.5年=6.75ドル
1年6ヶ月後に売却するので、単価に利子を加えた額にTTBを乗じます。
- 利子を加えた売却金額:(102.50ドル+6.75ドル)×140.00円=109.25ドル×140.00円=15,295円
所有期間利回りを1.5年分換算で求めます。
- 所有期間利回り
=$\frac{利子を加えた売却金額-円建ての購入金額}{円建ての購入金額}$÷年数×100
=$\frac{15,295円-14,541円}{14,541円}$÷1.5年×100
=$\frac{754円}{14,541円}$÷1.5年×100
=3.456…%
=3.46%
最後に、簡単な検算にも繋がる考え方としては、年率4.5%(1.5年で6.75%)の利子が付く債券ですが、この利率より低くなるのは、この期間にTTS・TTBが148円→140円(なお、TTSとTTBの差はスプレッド、要するに手数料となります)と約5.7%程度の円高ドル安になった分の為替差損(スプレッド込み)を引き、債券の売却価格が98.25ドル→102.35ドルまで4.17%上がっています。よって、1年半で利子6.75%、為替差損5.7%、債券の売却価格4.17%とすれば5.22%となって1年半を年率にすればその位になるかなと考えられます。
外貨建て債券の利回りは、計算自体は簡単です。この問題についても、次の4行で済みます。
- 円建ての購入金額:98.25ドル×148.00円=14,541円
- 利子:100ドル×4.5%×1.5年=6.75ドル
- 利子を加えた売却金額:(102.50ドル+6.75ドル)×140.00円=109.25ドル×140.00円=15,295円
- 所有期間利回り=$\frac{15,295円-14,541円}{14,541円}$÷1.5年×100=3.46%
要点としては、為替レートは単価で計算して、利子は額面で計算することです。
以下は、外貨建て債券の利回りと、外貨預金の利回りについての解説となるため、違和感がない場合には読む必要はありません。
「学科で出題される外貨預金の利回り計算とはどう違うの?」といった疑問が出る人がいるかもしれません(私は疑問に思いました)
2023年5月試験(問20)を参考に、外貨預金の利回り計算を見ていきましょう。
《問20》 下記の〈条件〉で、為替予約を付けずに円貨を外貨に交換して外貨預金に預け入れ、満期時に外貨を円貨に交換して受け取る場合における利回り(単利による年換算)として、次のうち最も適切なものはどれか。なお、3カ月は0.25年として計算し、税金等は考慮せず、計算結果は表示単位の小数点以下第3位を四捨五入すること。
〈条件〉
・外貨預金の通貨、期間、利率
米ドル建て定期預金、期間3カ月、利率4.00%(年率)
・為替レート
TTS TTM TTB 預入時為替レート 130.00円 129.50円 129.00円 満期時為替レート 133.00円 132.50円 132.00円
この問題は、100ドル分のドルを買うとして、次の4行で解けます。
- 円建ての購入金額:100ドル×130.00円(TTS)=13,000円
- 利子:100ドル×4.00%×0.25年(3ヶ月)=1ドル
- 利子を加えた売却金額:(100ドル+1ドル)×132.00円(TTB)=101ドル×132.00円=13,332円
- 利回り=$\frac{13,332円-13,000円}{13,000円}$÷0.25年×100=10.215%→10.22%
簡単な検算としても、年率4%の利子に加えて、保有3ヶ月でTTBが129円→132円まで円安ドル高と+2.32%の為替差益となったため、スプレッドを引いても10%程度にはなるだろうなと思えます(この問題で利子以上の利回りとなるのは、3ヶ月で+2.3%の為替差益となった点が大きいです)。
外貨建て債券と外貨預金の違いは、ズバリ単価の有無です。
外貨建て債券は、額面100ドル分を買うとして、売却時には購入時よりもプレミアムを付けて売ることが可能です。外貨預金は外貨変動のみです。
| キャピタルゲイン | インカムゲイン | 為替差損益 | |
| 外貨建て債券 | ○ | クーポン | ○ |
| 外貨預金 | × | 利子 | ○ |
- 外貨建て債券=債券のプレミアム+利子+為替差損益
- 外貨預金=利子+為替差損益
ただ、FP1級問題においては難しく考える必要はないため。外貨預金の計算をベースにして、外貨建て債券の計算においては「為替は単価で計算して、利子は額面に付く」と理解すればokです。
タックスプランニング
タックスプランニングでは、所得税か法人税のどちらかが出題されます。
いずれであっても、最初から最後まで計算が合っていれば、全て得点できますが、1つでも間違っていると総崩れになるオールオアナッシング的な側面があります。
なお、所得税より法人税の方が簡単です。
また、金財の優しさとして、答えが合っているかどうか検算できるテクニックもあるため、この辺も過去問を何度も演習して身に付けていってください。
2020年以降の出題傾向は次の通りです。
- 所得税:2020年1月、2021年1月、2022年5月、2022年9月、2023年1月、2023年9月、2024年9月
- 法人税:2020年9月、2021年5月、2021年9月、2022年1月、2022年5月、2023年5月、2024年1月、2024年5月、2025年1月、2025年5月
法人税の方が出題されやすくなっていますが、所得税も必ず対策しておくようにしてください。
必ずマスターしておくべき問題
- 所得税:2020年1月(基本問題)、2024年9月(少額減価償却資産、雑損控除)、2018年1月(事業専従者控除、医療費控除)、2021年1月(事業専従者控除、所得金額調整控除)、2023年1月(各所得、所得金額調整控除、医療費控除)、2023年9月(扶養控除)
- 法人税:2025年5月(基本問題)、2022年5月(基本問題)、2021年9月(役員給与、役員退職給与)、2024年1月(修繕費)、2019年1月(青色申告の繰越欠損金)、2017年9月(生命保険料の損金不算入額)
所得税
所得税では、事業所得を求めて、最終的には総所得金額や所得税を求める問題が出題されます。
事業所得
まず事業所得を求める問題が出題されます。ここで求める事業所得の値は、次の問題でも使うため、ここを間違えると総崩れになってしまう点に注意が必要です。細心の注意をもって解くようにしてください。
2020年1月試験を見ていきましょう。
《問58》Aさんの2019年分の事業所得の金額を求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。なお、Aさんは、正規の簿記の原則(複式簿記)に従って記帳し、それに基づき作成した貸借対照表および損益計算書等を確定申告書に添付して、確定申告期限内に提出するものとし、事業所得の金額の計算上、青色申告特別控除額を控除すること。
〈Aさんの2019年分の収入等に関する資料〉
I.事業所得に関する事項
①2019年中における売上高、仕入高等
項目 金額 売上高 9,960万円 仕入高 7,500万円 売上値引および返品高 14万円 年初の商品棚卸高 710万円 年末の商品棚卸高 745万円 必要経費※ 690万円 ※上記の必要経費は税務上適正に計上されている。なお、当該必要経費には、青色事業専従者給与は含まれているが、売上原価および下記②の減価償却費は含まれていない。
②2019年中に取得した減価償却資産(上記①の必要経費には含まれていない)
減価償却資産 備考 車両1台※ 7月12日に事業用として48万円で購入し、取得後直ちに事業の用に供している。
(耐用年数4年、償却率(定率法 0.5 / 定額法 0.25))※償却方法は法定償却方法とする。
まず、事業所得の簡単な全体像の式は次のようになっています。
- 事業所得=売上高-売上値引および返品高-必要経費-事業専従者控除
事業所得の計算においては、次の2点について確認するようにしてください。
- 事業専従者控除を控除するかどうか(問題文を確認)
- 必要経費として求めるものについて、「必要経費※」のコメントを確認する。
この問題では、「正規の簿記の原則(複式簿記)に従って~、青色申告特別控除額を控除する」と出ているため、事業専従者控除として「青色申告別控除65万円」を控除します。
次に、「当該必要経費には、青色事業専従者給与は含まれているが、売上原価および下記②の減価償却費は含まれていない。」と出ているため、今回は「売上原価」と「減価償却費」について別個に求める必要があります。
まずは、売上原価を求めます。
- 売上原価
=年初の商品棚卸高+仕入高-年末の商品棚卸高(最終仕入原価法)
=710万円+7,500万円-745万円
=7,465万円
ここで注意が必要なのは、年末の商品棚卸高は、法定評価方法として「最終仕入原価法」の値を使うということです(この問題では記述がありませんが)。
次に、減価償却費(車両1台)を求めます。使用月数で月割計算してください。
- 減価償却費
=48万円×$\frac{6ヶ月}{12ヶ月}$×0.25
=6万円
所得税においては、減価償却費は定額法で求めます。また、10万円未満の資産については、少額減価償却資産として全額が対象となります。
以上をまとめると、事業所得は次のようになります。
- 事業所得
=売上高-売上値引および返品高-必要経費-売上原価-減価償却費-青色申告特別控除
=9,960万円-14万円-690万円-7,465万円-6万円-65万円
=1,720万円
=17,200,000円
事業所得の計算においては、どの要素を使うかについて、表を一つずつチェックして潰していくのがよいかと思います。
| 項目 | 金額 |
| 売上高 | 9,960万円 |
| 仕入高 | 7,500万円 |
| 売上値引および返品高 | 14万円 |
| 年初の商品棚卸高 | 710万円 |
| 年末の商品棚卸高 | 745万円 |
| 必要経費※ | 690万円 |
この表にある全ての値に加えて、「売上原価」「減価償却費」「青色申告特別控除」を使うわけです。
「売上高」、「売上値引および返品高」、売上原価(「仕入高」「年初の商品棚卸高」「年末の商品棚卸高」)、「必要経費」と、計算に使った要素はチェックしていきます。売上高以外は全て引き算です。
所得税の計算では、事業所得を間違えてしまうと、以降は全部間違えてしまうため、細心の注意を払って確実に正答できるようにしてください。
事業所得の論点となるのは、(1)売上原価、(2)減価償却費、(3)事業専従者控除の3点です。
(1)売上原価については、「最終仕入原価法」を使う。
(2)減価償却費については定額法で、10万円未満の資産は少額減価償却資産として全額を計上する。
(3)事業専従者控除については、青色申告の場合には青色申告特別控除(65万円、55万円(e-Taxなし)、10万円(確定申告期限外))を控除する。白色申告の場合には、「86万円(配偶者の場合。その他親族は50万円)」と「$\frac{事業専従者控除を控除する前の事業所得}{専従者の数+1}$」のうち低い額を控除する。また、事業専従者は、「その年を通じて6ヶ月以上、その事業に専従している」ことが控除を受けられる条件となる。
2024年9月試験を見ていきましょう。
《問58》 《設例》の〈Aさんの2024年分の収入等に関する資料〉に基づいて、Aさんの2024年分の①および②の金額をそれぞれ求めなさい。なお、Aさんは、正規の簿記の原則(複式簿記)に従って記帳し、それに基づき作成した貸借対照表および損益計算書等を確定申告書に添付して、確定申告期限内に提出し、かつ、e-Tax による申告(電子申告)を行うものとし、事業所得の金額の計算上、青色申告特別控除額を控除すること。
② 事業所得の金額
〈Aさんの2024年分の収入等に関する資料〉
Aさんは、2024年2月末に、31年11カ月勤務した会社を早期退職し、2024年3月1日から個人事業主として妻Bさんと小売業を営んでいる。
Ⅰ.事業所得に関する事項
項目 金額 売上高 9,200万円 仕入高 7,275万円 年末の商品棚卸高※1 □□□万円 必要経費※2 1,194万円 ※1 商品棚卸高は、先入先出法による評価額は660万円、移動平均法による評価額は650万円、最終仕入原価法による評価額は670万円である。なお、Aさんは、棚卸資産の評価方法について、税務上の届出はしていない。
※2 上記の必要経費は適正に計上されている。なお、当該必要経費には、青色事業専従者給与は含まれているが、売上原価および下記②は含まれていない。
② 取得した減価償却資産(上記①の必要経費には含まれていない)
・パソコン1台:3月1日に事業用として8万円で取得し、取得後直ちに事業の用に供している。
(耐用年数4年、償却率(定率法 0.5 / 定額法 0.25))
・機械設備1台:3月10日に事業用として240万円で取得し、取得後直ちに事業の用に供している。なお、Aさんは、減価償却資産の減価償却方法について、税務上の届出はしていない。
(耐用年数8年、償却率(定率法 0.25 / 定額法 0.125))
まず売上原価を求めます。Aさんは2024年中に事業を始めているため、「年初の商品棚卸高」は0円です。「Aさんは、棚卸資産の評価方法について、税務上の届出はしていない」ということで、最終仕入原価法による評価額を用います。
- 売上原価
=年初の商品棚卸高+仕入高-年末の商品棚卸高(最終仕入原価法)
=0万円+7,275万円-670万円
=6,605万円
減価償却費(パソコン1台と機械設備1台)は、次の通りです。パソコン1台は10万円未満の少額減価償却資産のため全額を経費に算入します。
- 減価償却費
=8万円+240万円×$\frac{10ヶ月}{12ヶ月}$×0.125
=8万円+25万円
=33万円
青色申告特別控除はe-Taxで期限内申告のため「65万円」となります。
以上から、事業所得は次のようになります。
- 事業所得
=売上高-必要経費-売上原価-減価償却費-青色申告特別控除
=9,200万円-1,194万円-6,605万円-33万円-65万円
=1,303万円
=13,030,000円
白色申告の場合の事業専従者控除については、注意が必要です。
2018年1月試験を見ていきましょう。
《問57》Aさんの平成29年分の事業所得の金額を求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。なお、事業所得の金額の計算上、事業専従者控除額を控除することとし、事業専従者は妻Bさんのみであるものとする。
〈Aさんとその家族に関する資料〉
Aさん(50歳) :白色申告者
妻Bさん(50歳) :事業専従者(Aさんの小売業に専従している)長男Cさん(25歳):会社員。平成29年中に給与収入400万円を得ている。
長女Dさん(21歳):大学生。平成29年中に収入はない。
母Eさん(78歳) :平成29年中に老齢基礎年金70万円を受け取っている。
〈Aさんの平成29年分の収入等に関する資料〉
Ⅰ.事業所得に関する事項
(1)平成29年中における売上高、仕入高等
項目 金額 売上高 2,800万円 仕入高 1,000万円 売上値引および返品高 50万円 年初の商品棚卸高 500万円 年末の商品棚卸高 530万円(先入先出法による場合)
525万円(最終仕入原価法による場合)必要経費※ 500万円 ※上記の必要経費は税務上適正に計上されている。なお、売上原価、下記(2)の減価償却費および事業専従者控除は含まれていない。
(2)平成29年中に取得した減価償却資産(上記(1)の必要経費には含まれていない)
パソコン4台:4月20日に事業用として1台当たり36万円で購入し、取得後直ちに事業の用に供している。
(耐用年数4年、償却率(定率法 0.5 / 定額法 0.25))
まず売上原価を求めます。最終仕入原価法による評価額を用います。
- 売上原価
=年初の商品棚卸高+仕入高-年末の商品棚卸高(最終仕入原価法)
=500万円+1,000万円-525万円
=975万円
減価償却費(パソコン4台)は、次の通りです。
- 減価償却費
=36万円×$\frac{9ヶ月}{12ヶ月}$×0.25×4台
=27万円
事業専従者控除については、今回は白色申告となり、配偶者のみの控除となります。この場合には、まずここまでの事業所得を求めてから、事業専従者控除を引きます。
- 事業専従者控除を控除する前の事業所得
=売上高-売上値引および返品高-必要経費-売上原価-減価償却費
=2,800万円-50万円-500万円-975万円-27万円
=1,248万円
事業専従者控除は、配偶者のため、「86万円」と「$\frac{事業専従者控除を控除する前の事業所得}{専従者の数+1}$=$\frac{1,248万円}{2}$=624万円」のうち低い額となる「86万円」を控除します。
- 事業所得
=1,248万円-86万円
=1,162万円
=11,620,000円
事業専従者控除については、2021年1月試験ではひっかけ問題が出題されています。
《問58》Aさんの2020年分の(1)事業所得の金額および(2)退職所得の金額を、それぞれ求めなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は円単位とすること。なお、事業所得の金額の計算上、妻Bさんが事業専従者の要件を満たしている場合、事業専従者控除額を控除すること。
Aさんは、2020年10月に30年7カ月勤めた商社を退職し、個人で小売店を開業した。
〈Aさんとその家族に関する資料〉
Aさん(53歳) : 白色申告者
妻Bさん(50歳) : 専業主婦であったが、2020年11月からAさんの小売業に従事している。
長女Cさん(20歳): 大学生。2020年中に収入はない。
母Dさん(80歳) : 2020年中に老齢基礎年金70万円と遺族厚生年金90万円を受け取っている。〈Aさんの2020年分の収入等に関する資料〉
(3) 事業所得に関する事項
項目 金額 売上高 1,700万円 仕入高 1,500万円 売上値引および返品高 100万円 年初の商品棚卸高 0万円 年末の商品棚卸高 580万円(先入先出法による場合)
600万円(最終仕入原価法による場合)必要経費※ 500万円 ※上記の必要経費は税務上適正に計上されている。なお、必要経費には売上原価は含まれていない。
まず、売上原価を求めます。最終仕入原価法による評価額を用います。
- 売上原価
=年初の商品棚卸高+仕入高-年末の商品棚卸高(最終仕入原価法)
=0万円+1,500万円-600万円
=900万円
ここまでの事業所得は次のようになります。
- 事業専従者控除を控除する前の事業所得
=売上高-売上値引および返品高-必要経費-売上原価
=1,700万円-100万円-500万円-900万円
=200万円
事業専従者控除についてなのですが、実はこの問題は、「妻Bさん(50歳): 専業主婦であったが、2020年11月からAさんの小売業に従事している」とあり、2020年末時点では事業に従事してから2ヶ月となっており、事業専従者控除を受けられる「半年以上」の条件を満たしていません。よって、事業専従者控除を受けられないので、「200万円」が正解となります。
所得税の表(損益通算、所得控除)
所得税の表を埋める問題について、見ていきましょう。
所得税の総所得金額を求めるための損益通算、所得控除や税額控除、復興特別所得税、所得税額の計算などの総合問題となっています。
各点について理解していくよりも、問題を通して覚えてしまった方が効率的です。
損益通算についてだけ、主な要点は次の通りです。学科でも重要な知識となります。
- 経常所得グループと譲渡・一時所得グループに分けて損益通算する。
- 不動産所得の赤字については、土地の取得に係る負債の利子は含めない(黒字の場合はそのままでok)。
- 一時所得の黒字は最終的に2分の1にする。
それでは実際の問題を通して、理解していきましょう。
2020年1月試験は次の通りです。
《問59》前問《問58》を踏まえ、Aさんの2019年分の所得税および復興特別所得税の申告納税額を計算した下記の表の空欄①~⑥に入る最も適切な数値を求めなさい。空欄⑥については、100円未満を切り捨てること。
なお、Aさんの2019年分の所得控除の合計額を400万円とし、配当控除の適用を受けるものとする。また、記載のない事項については考慮しないものとし、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
II.不動産所得に関する事項
賃貸収入:720万円
必要経費:750万円(賃貸用不動産の取得に要した負債の利子60万円(土地の取得に係るものが42万円、建物の取得に係るものが18万円)が含まれている。III.Aさんが2019年中に受け取った非上場株式の配当金に関する事項
配当金額 : 60万円(源泉所得税控除前)
※その支払の際に、所定の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されている。
※当該非上場株式を取得するための負債の利子はない。IV.Aさんが2019年中に解約した生命保険に関する事項
保険の種類: 一時払変額個人年金保険(10年確定年金)
契約年月 : 2009年8月
契約者(=保険料負担者) : Aさん
被保険者 : Aさん
解約返戻金額 :370万円
正味払込済保険料:300万円※妻Bさん、長女Cさん、長男Dさんは、Aさんと同居し、生計を一にしている。
※Aさんとその家族は、いずれも障害者および特別障害者には該当しない。
※Aさんとその家族の年齢は、いずれも2019年12月31日現在のものである。
まず、(a)総所得金額を求めていきます。
前問の事業所得については省略します。1720万円です。
不動産所得は、720万円-750万円=△30万円の赤字となりますが、土地の取得に係る負債の利子が42万円と赤字額より多いため0円となり、損益通算できません。
配当所得の金額は、そのまま60万円です。
一時所得の金額は、370万円-300万円-特別控除額50万円=20万円となります。一時所得の金額は2分の1とするため、20万円×$\frac{1}{2}$=10万円となります。
以上から、
(a)総所得金額
=事業所得1720万円+不動産所得0円+配当所得60万円+一時所得10万円
=1790万円
=17,900,000円 …①
(b)所得控除は4,000,000円のため、(c)課税総所得金額は17,900,000円-4,000,000円=1,390,000円となります。
(d)(c)に対する所得税額は、所得税の速算表より、1,390,000円×33%-1,536,000円=3,051,000円 …②
(e)配当控除は、課税総所得金額が1,000万円超のときは5%(1,000万円以下のときは10%)となります。配当所得は60万円のため、60万円×5%=30,000円 …③
(f)差引所得税額は、3,051,000円-30,000円=3,021,000円
(g)復興特別所得税は所得税の2.1%となります。3,021,000円×2.1%=63,441円 …④
※復興特別所得税は2.1%と暗記してください。忘れた場合には、おなじみの株の利益に掛かる所得税15.315%から逆算できます。15%×2.1%=0.315%
なお、ここに金財の優しさがあって、検算できます。今までの全ての問題において、復興特別所得税の額は割り切れる金額となっています。つまり、ここで割り切れない金額が出た場合には、計算ミスがどこかにあるということです。
(h)所得税及び復興特別所得税の額は、(f)差引所得税額+(g)復興特別所得税=3,021,000円+63,441円=3,084,441円
(i)所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額は、今回は非上場株式の配当金が20.42%源泉徴収されるため、60万円×20.42%=122,520円 …⑤
(j)所得税及び復興特別所得税の申告納税額は、
(h)所得税及び復興特別所得税の額-(i)所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額
=3,084,441円-122,520円
=2,961,921円
→2,961,900円 …⑥
最後に、100円未満切り捨てを忘れないようにしてください。
以降は、各論(各所得の損益通算、所得控除)について述べていきますが、必ず該当箇所の問題を解いて、最終的な所得税額まで求めるようにしてください。
各所得の損益通算
まずは各所得を求める問題について見ていきましょう。
2023年1月試験は、次の通りです。
Aさん(65歳)は、X株式会社の役員として勤務する傍ら、不動産業を営んでおり、二世帯住宅で妻Bさん(65歳)、長男Cさん(35歳)家族と暮らしている。
《問57》 《設例》の〈収入等に関する資料〉に基づいて、Aさんの2022年分の所得金額等である次の①~③をそれぞれ求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は万円単位と
すること。
① 総所得金額に算入される一時所得の金額
② 雑所得の金額
③ 総所得金額
〈収入等に関する資料〉
1.給与所得
収入金額 :1,300万円
給与所得控除額:195万円
2.不動産所得(賃貸アパートの経営による所得)
総収入金額:500万円
必要経費 :520万円(注)
(注)当該所得を生ずべき土地の取得に要した負債の利子10万円を含んだ金額3.譲渡所得(特定口座内の上場株式を譲渡したことによる所得)
総収入金額:300万円
取得費等 :270万円4.老齢基礎年金の年金額:55万円
5.確定給付企業年金の老齢給付金の年金額:100万円6.定額個人年金保険契約に基づく年金額:180万円(必要経費120万円)
7.一時払終身保険の解約返戻金
契約年月 :2010年4月
契約者(=保険料負担者)・被保険者 :Aさん
解約返戻金額 :960万円
正味払込保険料 :900万円
8.一時払変額個人年金保険(10年確定年金)の解約返戻金
契約年月 :2018年8月
契約者(=保険料負担者)・被保険者 :Aさん
解約返戻金額 :1,200万円
正味払込保険料 :1,000万円
①総所得金額に算入される一時所得の金額について。保険の解約返戻金(正味払込保険料を控除する)の合計となります。ただ、一時払変額個人年金保険や養老保険については、5年以内に解約すると金融類似商品として源泉分離課税となるため、8は含めません。よって、7だけです。特別控除額50万円を引いて、2分の1とします。
- 一時所得の金額=(960万円-900万円-50万円)×$\frac{1}{2}$=5万円
②雑所得の金額は、この問題では、公的年金等と民間の個人年金保険の合計となります。
公的年金等は、老齢基礎年金55万円+確定給付企業年金100万円-公的年金等控除額100万円=55万円
個人年金保険については、定額個人年金保険180万円-必要経費120万円=60万円
よって、
- 雑所得の金額=55万円+60万円=115万円
最後に、③総所得金額を求めていきましょう。
給与所得では、大きな罠があります。
給与所得から給与所得控除に加えて控除できる所得金額調整控除は、次の2パターンがあります。
(1)給与収入850万円を超える場合に、23歳未満の扶養親族を有する、もしくは、本人を含む扶養親族が特別障碍者である場合
(2)給与所得と年金所得の双方を有する場合
今回は(2)の珍しいパターンです。この場合には、所得金額調整控除は次の額となります。
- 所得金額調整控除=(給与所得控除後の給与金額+公的年金等に係る雑所得の金額)-10万円
※「給与所得控除後の給与金額」「公的年金等に係る雑所得の金額」のいずれも最高10万円。よって、最大控除額は10万円となる。
今回は給与金額も年金額も10万円を超えているので、所得金額調整控除=10万円+10万円-10万円=10万円となります。
よって、給与所得の額は次の通りです。
- 給与所得の金額=1,300万円-195万円-10万円=1,095万円
不動産所得については、土地の取得に要した負債の利子10万円を必要経費から控除します。
- 不動産所得の金額=500万円-510万円=△10万円
譲渡所得はなしとなります(特定口座の利益は申告分離課税)。
以上をまとめると、
- 総所得金額
=一時所得5万円+雑所得115万円+給与所得1,095万円+一時所得5万円
=1,205万円
※より厳密には、経常所得グループの雑所得115万円+給与所得1,095万円+不動産所得△10万円をまとめて1,200万円。一時所得の10万円を足して1,210万円となり、最後に残った一時所得10万円を2で割って1,205万円となる。
特に、給与所得に係る所得金額調整控除については、忘れやすいため注意が必要です。
総所得金額について、2021年1月試験についても解いておきましょう(給与所得控除は2025年改正を反映)。特に給与所得については、2025年以降は103万円の壁の撤廃により改正点もあるため、過去問を解く際には注意が必要です。なお、事業所得については省略します。
《問58》Aさんの2020年分の①事業所得の金額および②退職所得の金額を、それぞれ求めなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は円単位とすること。なお、事業所得の金額の計算上、妻Bさんが事業専従者の要件を満たしている場合、事業専従者控除額を控除すること。
《問59》前問《問58》を踏まえ、Aさんの2020年分の課税総所得金額に対する算出所得税額(税額控除前の金額)を求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は100円未満を切り捨てて円単位とすること。なお、Aさんの2020年分の所得控除の合計額を300万円とし、記載のない事項については考慮しないものとする。
〈資料〉給与所得控除額
給与等の収入金額 給与所得控除額 190万円以下 65万円 190万円超 360万円以下 収入金額×30%+8万円 360万円超 660万円以下 収入金額×20%+44万円 660万円超 850万円以下 収入金額×10%+110万円 850万円超 195万円 〈Aさんとその家族に関する資料〉
Aさん(53歳) : 白色申告者
妻Bさん(50歳) : 専業主婦であったが、2020年11月からAさんの小売業に従事している。
長女Cさん(20歳): 大学生。2020年中に収入はない。
母Dさん(80歳) : 2020年中に老齢基礎年金70万円と遺族厚生年金90万円を受け取っている。
〈Aさんの2020年分の収入等に関する資料〉
(1) 給与所得に関する事項
給与収入の金額 : 900万円
(2) 退職所得に関する事項
退職手当等の収入金額 : 2,500万円
勤続期間 : 30年7カ月
※Aさんは支払者に「退職所得の受給に関する申告書」を提出している。
(3) 事業所得に関する事項(省略)
※200万円(4) 譲渡所得に関する事項
Aさんが売却したゴルフ会員権に関する事項は、以下のとおりである。
取得年月: 2000年8月
売却金額: 300万円
取得費 : 400万円
(5) 一時所得に関する事項
Aさんが解約した生命保険に関する事項は、以下のとおりである。
保険種類 : 一時払変額個人年金保険(10年確定年金)
契約年月 : 2012年8月
契約者(=保険料負担者) : Aさん
被保険者 : Aさん
解約返戻金額 : 480万円
正味払込保険料: 400万円
《問58》の②退職所得について求めます。
退職所得は、退職金額から退職所得控除を引き、その金額は2分の1とします。
退職所得控除は、(40万円×20年以下の年数+70万円×20年超の年数)となります。20年超の場合には(800万円+70万円×20年超の年数)です。年数は切り上げとなり、障害事由なら+100万円されます。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合には、超過累進課税で源泉徴収されます(提出しない場合は20.42%)。
本問では、退職所得控除=800万円+70万円×(31年-20年)=1,570万円
よって、退職所得の金額=(2,500万円-1,570万円)×$\frac{1}{2}$=465万円
そして、退職所得は、分離課税となるため、総所得金額には合算しません。
続いて、《問59》について総所得金額まで求めていきましょう。
給与所得は、給与収入が900万円のため、給与所得控除は最大の195万円となります。
また今回は、所得金額調整控除が、次のパターンで適用となります。
(1)給与収入850万円を超える場合に、23歳未満の扶養親族を有する、もしくは、本人を含む扶養親族が特別障碍者である場合
この場合の所得金額調整控除は、次の額となります。
- 所得金額調整控除=(給与収入金額-850万円)×10%
※「給与収入金額」が1,000万円超の場合には1,000万円。よって、控除額は最高15万円。
今回のケースでは、所得金額調整控除=(900万円-850万円)×10%=5万円
よって、給与所得=900万円-195万円-5万円=700万円
譲渡所得はマイナス100万円ですが、ゴルフ会員権や別荘などの生活用動産ではない譲渡所得は譲渡所得内での損益通算はできますが、他の所得との損益通算はできないため0円となります。
一時所得は、(480万円-400万円-50万円)×$\frac{1}{2}$=15万円となります。
以上をまとめると、
- 総所得金額
=給与所得700万円+事業所得200万円+一時所得15万円
=915万円
あとは、この金額から所得控除額を差し引いて、所得税の速算表から計算すれば良いだけです。
2025年からは給与所得控除の最低金額が55万円から65万円となった点については注意しておいてください。
所得控除
所得控除では、医療費控除、雑損控除、扶養控除、基礎控除の値を表で埋めていく問題が出ます。
まずは医療費控除について見ていきましょう。
医療費控除の値は次の通りです。
- 医療費控除=支払った医療費の額-保険金等で補填された額-10万円(総所得金額が200万円以下のときは総所得金額の5%)
論点となるのは、対象となる医療費は何かというものです。これは問題を通して理解していくようにするとよいでしょう。
2018年1月試験の医療費は次のようになっていました。
Ⅲ.医療費控除に関する事項
Aさんが平成29年中に支払った医療費等は、以下のとおりである。
①妻Bさんの入院に伴って病院に支払った費用44万円
※妻Bさんの希望により個室を使用したために支払った差額ベッド料16万円と入院時に病院から給付された食事の費用1万5,000円を含んだ金額である。
※入院時、病院に限度額適用認定証を提示している。
※Aさんは、入院治療費について、医療保険から入院給付金14万円を受け取っている。②妻Bさんの通院に伴って病院に支払った費用
6万円
③妻Bさんの通院のための電車賃・バス賃(交通費)
1万円
④Aさんの人間ドックの費用
8万円
※この検査により、疾病は発見されなかった。
①妻Bさんの入院に伴って病院に支払った費用44万円のうち、差額ベッド料16万円は差し引かないといけませんが、食事の費用1万5,000円は差し引く必要はありません。入院給付金14万円も差し引く必要があります。よって、入院に伴って病院に支払った費用=44万円-16万円-14万円=14万円
②通院に伴って病院に支払った費用6万円、通院のための電車賃・バス賃1万円はいずれも対象となります。
④Aさんの人間ドックの費用8万円は、検査により入院しなかったため、対象となりません。
以上から、
- 医療費控除
=(44万円-16万円-14万円)+6万円+1万円-10万円
=11万円
=110,000円
2023年1月試験の医療費控除についても見ていきましょう。
妻Bさんは、2022年9月に人間ドックの検査で重大な疾病が発見され、引き続きその疾病の治療ため入院をしていたことから、Aさんは妻Bさんの入院に係る医療費等について医療費控除の適用を受けたいと思っている。
〈医療費等に関する資料〉
①人間ドックの費用 :6万円
②入院用の寝巻きや洗面具などの購入費:1万円
③入院に伴って病院に支払った費用 :25万円
※妻Bさんの希望により個室を使用したために支払った差額ベッド料7万円と入院時に病院から給付された食事の費用1万5,000円を含んだ金額である。
※Aさんは、 入院治療費について、 医療保険から入院給付金10万円を受け取っている。
※高額療養費は支給されていない。
④通院に伴って病院に支払った費用 :5万円
①人間ドックの費用6万円は、検査入院に繋がったと本文にあるため、医療費控除の対象となります。
②入院用の寝巻きや洗面具などの購入費1万円は、差額ベッド代と同じく対象となりません。
③入院に伴って病院に支払った費用25万円からは、差額ベッド代7万円と入院給付金10万円を差し引く必要があるため、入院費用=25万円-7万円-10万円=8万円
④通院に伴って病院に支払った費用5万円も対象です。
以上から、
- 医療費控除
=6万円+(25万円-7万円-10万円)+5万円-10万円
=9万円
=90,000円
続いて、雑損控除について見ていきましょう。
雑損控除の値は次のいずれかのうち高い方となります。
- 雑損控除=(損害金額+災害等関連支出-保険金等)-総所得金額等×10%
- 雑損控除=(災害等関連支出-保険金等)-5万円
特に、前者の式が出題されやすくなっています。
特に、この「総所得金額等×10%」は、退職所得など分離課税の各種所得を加えた額となる点に注意が必要です。
2024年9月試験では、ほぼ初見殺しとなる雑損控除の問題が出題されました。
Ⅳ.地震による損害額と保険金等に関する事項
損害金額 : 450万円(下記の災害関連支出は含まれていない)
災害関連支出の金額 : 140万円
地震保険からの保険金 : 200万円
この問題では、所得に関しても問題となっていますが、省略して次の通りです。
- 事業所得:1,303万円
- 給与所得:105万円(※2024年以前の給与所得控除の額55万円を適用とする)
- 退職所得:680万円
雑損控除の額は、次のようになります。
- 雑損控除
=(損害金額450万円+災害等関連支出140万円-保険金200万円)-2,088万円×10%
=390万円-208.8万円
=1,812,000円
続いて、扶養控除について見ていきましょう。
扶養控除については、次の表を覚えておけば問題ありません。合計所得金額が48万円以下の者が対象となりますが、2025年から103万円の壁(給与所得控除55万円、基礎控除48万円)が160万円の壁(給与所得控除65万円、基礎控除95万円)になった点には注意しておきましょう。
| 扶養親族 | 控除額 |
| 一般の控除対象扶養親族 (16歳以上19歳未満、23歳以上70歳未満) |
38万円 |
| 特定扶養親族 (大学生 19歳以上23歳未満) |
63万円 |
| 老人扶養親族(70歳以上) | 同居:58万円 非同居:48万円 |
2023年9月試験の、扶養控除について求めてみましょう。
〈Aさんとその家族に関する資料〉
Aさん (47歳):青色申告者
妻Bさん (46歳):2023年中に青色事業専従者として給与収入80万円を得ている。
父Cさん (75歳):2023年中に公的年金の老齢年金から年金収入150万円を得ている。
長男Dさん(20歳):大学生。2023年中にアルバイトにより給与収入100万円を得ている。
※妻Bさん、父Cさん、長男Dさんは、Aさんと同居し、生計を一にしている。
妻Bさんは青色事業専従者のため配偶者控除は受けられません。
父Cさんの所得は、年金収入150万円から公的年金等控除110万円と基礎控除を引くと、48万円以下となるため該当します。70歳以上で同居しているため、58万円となります。
長男Dさんの所得は、給与収入100万円から給与所得控除と基礎控除を引くと、48万円以下となるため該当します。大学生の年齢のため特定扶養親族で63万円となります。
以上から、
- 扶養控除
=58万円+63万円
=121万円
=1,210,000円
最後に、基礎控除についてです。
2024年までは、基礎控除48万円、合計所得金額2,400万円から段階的に減っていき、合計所得金額2,500万円以上で0となりました。
2025年からは、基礎控除48万円から最高95万円となり、給与所得控除も55万円→65万円となったことで、103万円の壁が160万円の壁に引き上げられました。
より具体的には、次のようになっています。
| 合計所得金額 | 基礎控除額 |
| 132万円以下 | 95万円 |
| 132万円超336万円以下 | 88万円 |
| 336万円超489万円以下 | 68万円 |
| 489万円超655万円以下 | 63万円 |
| 665万円超2,350万円以下 | 58万円 |
| 2,350万円超2,400万円以下 | 48万円 |
| 2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
| 2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
| 2,500万円超 | 0円 |
基礎控除の穴埋め問題は「480,000」と書くだけで1点が得られるボーナス問題となっていましたが、今後は出題されなくなりそうです。
最低限、最高95万円と、範囲が広い665万円超2,350万円以下の58万円については覚えておくべきかと思います。
法人税
法人税では、別表四を埋めていき、法人税額を求める問題が出題されます。
初見では、全く何がなんだが分からないかと思いますが、慣れてしまえば非常に簡単で得点源にできます。
まず最初に、とっつきやすくするため、「そもそも別表四とは何か?」「そもそも何をやっているのか?」という所から解説していきます。
法人税申告における「別表四」とは、法人税の申告書の一部で、会計上の利益(税引前当期純利益)をもとに、税務上の所得(課税所得)を計算するための調整を行う表です。
つまり、会計上の利益と税務上の所得には違いがあるため、税務調整を行い、適正な法人税をするための処理を行うというのが、FP1級の法人税の問題で行うことです。
この税務調整においては、「加算」と「減算」という2つの処理があります。
- 加算:会計上では損金としたが、税務上では認められないもの。加算して、課税所得を増やす。
- 減算:会計上では利益に計上したが、税務上では非課税となるもの。減算して、課税所得を減らす。
ここまでの点を押さえたら、あとはとにかく問題を自分の手で解きまくるしかありません。
基本問題として、2025年5月試験を見ていきましょう。
《問57》《設例》の〈X社の当期における法人税の確定申告に係る資料〉と下記の〈条件〉に基づき、X社に係る〈略式別表四(所得の金額の計算に関する明細書)〉の空欄①~⑦に入る最も適切な数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、別表中の「***」は、問題の性質上、伏せてある。
〈条件〉
・設例に示されている数値等以外の事項については考慮しないものとする。
・所得の金額の計算上、選択すべき複数の方法がある場合は、所得の金額が最も低くなる方法を選択すること。
〈X社の当期における法人税の確定申告に係る資料〉
1.減価償却費に関する事項
当期における減価償却費は、その全額について損金経理を行っている。このうち、器具備品の減価償却費は2,000千円であるが、その償却限度額は1,800千円であった。一方、建物の減価償却費は4,500千円で、その償却限度額は4,800千円であった。なお、当該建物について前期からの繰越償却超過額が500千円ある。2.役員給与に関する事項
当期において、代表取締役であるAさんが所有する時価20,000千円(取得価額23,000千円)の土地を25,000千円で買い取った。なお、X社は、この土地の売買に係る事前確定届出給与に関する届出書は提出していない。3.交際費等に関する事項
当期における交際費等の金額は19,700千円で、全額を損金経理により支出している。このうち、参加者1人当たり10千円以下の飲食費が1,200千円含まれており、その飲食費を除いた接待飲食費に該当するものが16,800千円含まれている(いずれも得意先との会食によるもので、専ら社内の者同士で行うものは含まれておらず、所定の事項を記載した書類も保存されている)。その他のものは、すべて税
法上の交際費等に該当する。4.税額控除に関する事項
当期における「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」に係る税額控除額が280千円ある。5.「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項
(1) 損益計算書に表示されている「法人税、住民税及び事業税」は、預金の利子について源泉徴収された所得税額40千円・復興特別所得税額840円および当期確定申告分の見積納税額6,500千円の合計額6,540,840円である。なお、貸借対照表に表示されている「未払法人税等」の金額は6,500千円である。
(2) 当期中に「未払法人税等」を取り崩して納付した前期確定申告分の事業税(特別法人事業税を含む)は1,220千円である。
(3) 源泉徴収された所得税額および復興特別所得税額は、当期の法人税額から控除することを選択する。
(4) 中間申告および中間納税については、考慮しないものとする。
※上記以外の条件は考慮せず、各問に従うこと。
まずは「加算」について埋めていきます。
①損金経理をした納税充当金は、5.「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項の、”貸借対照表に表示されている「未払法人税等」の金額”をそのまま入れます。
よって、6,500,000円となります。「損金経理をした納税充当金」は「未払法人税等」の値をそのまま入れればよいボーナス問題です。
②減価償却の償却超過額は、1.減価償却費に関する事項を読みます(同時に⑤についてもやっておきましょう)。
「器具備品の減価償却費は2,000千円であるが、その償却限度額は1,800千円であった。」とあります。つまり、器具備品の償却限度額は1,800千円に対して、2,000千円を減価償却してしまったため、その超過分の200千円を加算に入れます。よって、200,000円です。
③役員給与の損金不算入額は、2.役員給与に関する事項を読みます。
「代表取締役であるAさんが所有する時価20,000千円(取得価額23,000千円)の土地を25,000千円で買い取った。」とあります。時価20,000千円に対して、企業は5,000千円多い25,000千円で買い取っており、この差額は役員給与となります。よって、5,000,000円です。
④交際費等の損金不算入額は、3.交際費等に関する事項を読みます。
資本金1億円以下の中小企業の交際費等については、次の手順で解きます。
- 交際費等の金額から参加者1人当たり1万円以下の飲食費を差し引く。
- 接待飲食費の半分もしくは800万円のうち高い方を求める。
- 1から2を引く。
この問題では、
- 19,700千円-1,200千円=18,500千円→1,850万円
- 16,800千円÷2=840万円>800万円 ∴840万円
- 1850万円-840万円=1,010万円→10,100,000円
要するに、交際費等として損金算入できる金額は、接待飲食費の半分か800万円のうち高い方までにも関わらず、交際費等の金額から参加者1人当たり1万円以下の飲食費を差し引いた金額を超過して損金に算入していたため、加算するということです。
次に、「減算」について埋めていきます。
⑤減価償却超過額の当期認容額は、1.減価償却費に関する事項を読みます。
「建物の減価償却費は4,500千円で、その償却限度額は4,800千円であった。なお、当該建物について前期からの繰越償却超過額が500千円ある。」とあります。
減算の減価償却費については、前期からの繰越償却超過額を限度に、減価償却費と償却限度額の差を減算に入れることができます。
今回は、減価償却費は4,500千円で、その償却限度額は4,800千円と、300千円少なくなっており、前期からの繰越償却超過額が500千円のため、その差額の300千円を全て減算に入れられます。
よって、300,000円です。
次に、⑥法人税額から控除される所得税額を求めます。5.「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項の、(1)損益計算書に表示されている「法人税、住民税及び事業税」~を読みます。
ここに記載してある、預金の利子と受取配当金の利子の金額への源泉徴収額が求める値です。
今回は、「預金の利子について源泉徴収された所得税額40千円・復興特別所得税額840円」とあるため、40,000円+840円=40,840円となります。千円→円に戻す際の単位に注意してください。
なお、今回は、受取配当金の利子の金額ついてはありません。
最後に、⑦所得金額又は欠損金額について求めます。
まずは、「加算」と「減算」について総額を求めてください。
- 加算=①+②+③+④=6,500,000円+200,000円+5,000,000円+10,100,000円=21,800,000円
- 減算=⑤+1,220,000円=300,000円=1,520,000円
さらに、⑥法人税額から控除される所得税額についても加算します。
所得金額又は欠損金額は、次の式となります。
- 所得金額又は欠損金額
=当期利益の額+加算-減算+⑥法人税額から控除される所得税額
=17,179,160円+21,800,000円-1,520,000円+40,840円
=37,500,000円
別表四の一番上にある「当期利益の額」に、「加算」を足して、「減算」を引いて、⑥法人税額から控除される所得税額を足します。
そして実は、法人税が鳴れると簡単な理由としては、金財の優しさがあるためです。
最後に求める、所得金額又は欠損金額の値は、○○○○万円となり、下4桁が0000になります(過去問が全てそうなっています)。
よって、もしも最後の値の下4桁が0000になってなかった場合には、どこかに計算ミスがあるということです。
そして、次問の法人税の額まで求めてしまいましょう。
《問58》 前問《問57》を踏まえ、X社が当期の確定申告により納付すべき法人税額を求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は100円未満を切り捨てて円単位とすること。
資本金1億円以下の中小企業の法人税は、800万円以下は15%、800万円超は23.2%となります。資料が添付されますが、基本的な知識であるため覚えておきましょう。というか、問題を解いていれば自然と覚えます。
今回は、3,750万円のため、
- 800万円以下の部分の法人税額=800万円×15%=1,200,000円
- 800万円超の部分の法人税額=2,950万円×23.2%=6,844,000円
- 法人税額の合計=1,200,000円+6,844,000円=8,044,000円
次に、税額控除についてです。
4.税額控除に関する事項を読みます。「当期における「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」に係る税額控除額が280千円ある。」とあります。
ただ、賃上げ税制を含む税額控除は、最大で税額の2割までとなっています。
今回は、8,044,000円×20%=1,608,800円>280,000円のため、280,000円が全額控除できます。
さらに、5.「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項に、(3) 源泉徴収された所得税額および復興特別所得税額は、当期の法人税額から控除することを選択するとあるため、⑥法人税額から控除される所得税額の金額も法人税額から差し引きます。
以上から、
- 法人税額
=8,044,000円-280,000円-40,840円
=7,723,160円
→7,723,100円
100円未満を切り捨てて円単位とすることを忘れないようにしてください。
法人税の計算は、初見では訳が分からないかと思いますが、慣れてしまえば本当に簡単なため、何度も何度も解いて得点源にしてもらえたらと思います。
続いて、もう一つ基本問題として、2022年5月試験を解いていきましょう。
《問57》 《設例》のX社の当期の〈資料〉と下記の〈条件〉に基づき、同社に係る〈略式別表四(所得の金額の計算に関する明細書)〉の空欄①~⑥に入る最も適切な数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、別表中の「***」は、問題の性質上、伏せてある。
〈条件〉
・設例に示されている数値等以外の事項については考慮しないものとする。
・所得の金額の計算上、選択すべき複数の方法がある場合は、所得の金額が最も低くなる方法を選択すること。
〈X社の当期における法人税の確定申告に係る資料〉
1.減価償却費に関する事項
当期において、3年前に取得した生産設備(当期首の帳簿価額4,000千円・耐用年数10年・償却率(定率法)0.200)について、減損損失2,500千円を計上し、300千円を減価償却費として損金経理したが、減損損失2,500千円の計上は、税務上損金の額として認められないことが判明した。
2.退職給付引当金に関する事項
当期において、 決算時に退職給付費用3,000千円を損金経理するとともに、同額を退職給付引当金として負債に計上している。また、従業員の退職金支払の際に退職給付引当金を6,000千円取り崩し、同額を現金で支払っている。
3.受取配当金に関する事項
当期において、上場会社であるY社から、X社が前期から保有しているY社株式に係る配当金2,000千円(源泉所得税控除前)を受け取った。なお、Y社株式は非支配目的株式等に該当する。
4.所得拡大促進税制に係る税額控除に関する事項
当期における所得拡大促進税制(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)に係る控除対象雇用者給与等支給増加額は2,000千円である。適用を受けるための要件は満たしているが、上乗せ措置を受けるための要件までは満たしていない。
5.「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項
(1) 損益計算書に表示されている「法人税、住民税及び事業税」は、預金の利子について源泉徴収された所得税額20千円・復興特別所得税額420円、受取配当金について源泉徴収された所得税額300千円・復興特別所得税額6,300円およ
び当期確定申告分の見積納税額3,200千円の合計額3,526,720円である。なお、貸借対照表に表示されている「未払法人税等」の金額は3,200千円である。
(2) 当期中に「未払法人税等」を取り崩して納付した前期確定申告分の事業税(特別法人事業税を含む)は950千円である。
(3) 源泉徴収された所得税額および復興特別所得税額は、当期の法人税額から控除することを選択する。
(4) 中間申告および中間納税については、考慮しないものとする。
まずは「加算」から埋めていきます。
①損金経理をした納税充当金は、5.「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項の、”貸借対照表に表示されている「未払法人税等」の金額”をそのまま入れればよいため、3,200,000円です。
②減価償却の償却超過額は、1.減価償却費に関する事項を読みます。
本来だったら1年間で減価償却できる額は、4,000千円×0.200=800千円となります。
ただ、「減損損失2,500千円を計上し、300千円を減価償却費として損金経理したが、減損損失2,500千円の計上は、税務上損金の額として認められないことが判明した。」とあります。
つまり、本来だったら800千円までしか減価償却できないにも関わらず、合計2,500千円+300千円=2,800千円を計上しているため、超過分は2,800千円-800千円=2,000千円=2,000,000円となります。
③退職給付費用の損金不算入額についてです。2.退職給付引当金に関する事項を読みましょう(同時に減算の「退職給付引当金の当期認容額」もやってしまいましょう)。
退職給付引当金や賞与引当金、修繕引当金などの○○引当金については、企業会計では引当金として計上することが慣行となっていますが、損金算入することは認められていません。よって、全てキャンセルする必要があります。
「退職給付引当金として負債に計上している」とある場合は「加算」に計上し、「取り崩し、同額を現金で支払っている」とある場合は「減算」に計上する必要があります。
「加算」の③退職給付費用の損金不算入額については、「 決算時に退職給付費用3,000千円を損金経理するとともに、同額を退職給付引当金として負債に計上している」とあるため、3,000,000円となります。
次に、「減算」について埋めていきます。
④受取配当等の益金不算入額は、3.受取配当金に関する事項を読みます。
非支配目的株式等は、その金額の20%が益金不算入となるため、2,000千円×20%=400千円=400,000円となります。
問題にはなっていませんが、減算の合計額を求める上で「退職給付引当金の当期認容額」についても埋めていきましょう。2.退職給付引当金に関する事項を読みます。
○○引当金については、全てキャンセルする必要があります。
「従業員の退職金支払の際に退職給付引当金を6,000千円取り崩し、同額を現金で支払っている」とあるため、6,000,000円となります。
次に、⑤法人税額から控除される所得税額を求めます。5.「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項の、(1)損益計算書に表示されている「法人税、住民税及び事業税」~を読みます。
「預金の利子について源泉徴収された所得税額20千円・復興特別所得税額420円、受取配当金について源泉徴収された所得税額300千円・復興特別所得税額6,300円」とあるため、預金の利子と受取配当金の合計額=20千円+420円+300千円+6,300円=20,000円+420円+300,000円+6,300円=326,720円となります。
最後に、⑦所得金額又は欠損金額について求めていきます。
「加算」と「減算」について総額を求めます。
- 加算=①3,200,000円+②2,000,000円+③3,000,000円=8,200,000円
- 減算=950,000円+④400,000円+6,000,000円=7,350,000円
所得金額又は欠損金額は、次の通りです。
- 所得金額又は欠損金額
=当期利益の額+加算-減算+⑤法人税額から控除される所得税額
=15,823,280円+8,200,000円-7,350,000円+326,720円
=17,000,000円
法人税額についても求めていきましょう(税率表は省略します)。
《問58》 前問《問57》を踏まえ、X社が当期の確定申告により納付すべき法人税額を求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は100円未満を切り捨てて円単位とすること。
まず全体の法人税額を求めます。
- 800万円以下の部分の法人税額=800万円×15%=1,200,000円
- 800万円超の部分の法人税額=900万円×23.2%=2,088,000円
- 法人税額の合計=1,200,000円+2,088,000円=3,288,000円
次に、税額控除についてです。
4.所得拡大促進税制に係る税額控除に関する事項を読みます。「当期における所得拡大促進税制(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)に係る控除対象雇用者給与等支給増加額は2,000千円である。適用を受けるための要件は満たしているが、上乗せ措置を受けるための要件までは満たしていない。」とあります。
これは学科でも重要な中小企業の賃上げ税制の知識が必要です。賃上げ率1.5%なら+15%、賃上げ率2.5%なら30%となります(子育て両立と女性活躍(くるみみん・えるぼし)による+5%、教育訓練費5%で+10%は今回はありません)。
「上乗せ措置を受けるための要件までは満たしていない」とあるため、15%となります。よって、控除対象雇用者給与等支給増加額2,000千円×15%=300,000円。税額控除の上限2割(3,288,000円×20%=657,600円)に収まるため、300,000円を全額控除できます。
さらに、5.「法人税、住民税及び事業税」等に関する事項に、(3) 源泉徴収された所得税額および復興特別所得税額は、当期の法人税額から控除することを選択するとあるため、⑤法人税額から控除される所得税額の金額も法人税額から差し引きます。
以上から、
- 法人税額
=3,288,000円-300,000円-326,720円
=2,661,280円
→2,661,200円
ここからは、上記2問では網羅できなかった各論について解説していきますが、必ず全体の問題も解くようにしてください。
「加算」の「役員給与の損金不算入額」についてです(2021年9月試験)。
2.役員給与に関する事項
当期において、取締役のAさんに対して支給した役員給与は、2021年4月分から2021年11月分までは月額800千円であったが、2021年12月分から2022年3月分までは月額1,000千円に増額した。このAさんに対する役員給与について、増額する臨時改定事由は特になく、X社は所轄税務署長に対して事前確定届出給与に関する届出書を提出していない。
定額同額給与は、増額する臨時改定事由が特にない場合については、増額前の金額と増額後の金額の差額が損金不算入となります。
よって、役員給与の損金不算入額=(1,000千円-800千円)×4ヶ月=800千円=800,000円
「加算」の「役員給与の損金不算入額」についてです(2023年5月試験)。
1.役員給与に関する事項
当期において役員の所有する土地・建物を37,000千円で取得し、X社の所有する車両を1,000千円で同じ役員に譲渡した。この土地・建物の時価は25,000千円、車両の時価は3,000千円である。なお、X社は所轄税務署長に対して事前確定届出給与に関する届出書は提出していない。
役員から時価よりも高額で購入した場合、役員に時価よりも低額で譲渡した場合のいずれも、損金不算入となる役員給与となります。
よって、土地・建物と車両のそれぞれの時価との差額=12,000千円+2,000千円=14,000千円=14,000,000円
「加算」の「役員退職給与の損金不算入額」についてです(2021年9月試験)。
3.役員退職金に関する事項
当期において、退任した取締役のBさんに対して役員退職金を35,000千円支給した。この役員退職金の税法上の適正額は、最終報酬月額800千円、役員在任期間15年、功績倍率2.5倍として功績倍率方式により算定した金額が妥当であると判断されたため、支給額のうち功績倍率方式により計算された適正額を上回る部分については、別表四において自己否認を行うことにした。
功績倍率方式による法人税法上の適正額
=最終報酬月額800千円×役員在任期間15年×功績倍率2.5倍
=30,000千円
損金不算入額は、35,000千円-30,000千円=5,000千円=5,000,000円となります。
退職給付引当金の加算と減算についてです(2023年5月試験)。
3.退職給付引当金に関する事項
当期において従業員の退職金制度の一部として外部の企業年金基金に掛金として2,900千円を支払い、その際に退職給付引当金を同額取り崩している。また、決算時に退職給付費用5,000千円を損金経理するとともに、同額を退職給付引当金として負債に計上している。さらに、従業員の退職金の支払の際に退職給付引当金を3,000千円取り崩し、X社から同額を現金で支払っている。
退職給付引当金については、「取り崩している」は減算に計上し、「負債に計上している」は加算に計上して、全てをキャンセルします。複数ある場合も同様です。
この問題の場合には、加算(退職給付費用の損金不算入額)は5,000千円=5,000,000円、減算(退職給付引当金の当期認容額)は2,900千円+3,000千円=5,900千円=5,900,000円となります。
修繕費についてです(2024年1月試験)。
3.修繕費に関する事項
当期の期末近くにおいて機械装置の大規模修繕を行い、12,000千円を修繕費として損金経理により支出しており、このうち、3,000千円は資本的支出に当たる。
この修繕について、前期末決算において修繕引当金を12,000千円計上し、〈別表四(所得の金額の計算に関する明細書)〉において申告調整しており、当期の決算で
はこの引当金の修繕引当金戻入を収益として計上した。
2024年1月試験では、今までにない記述が多くの受験生を混乱させたかと思いますが、冷静に考えれば基本的な問題ではありました。
まず、「12,000千円を修繕費として損金経理により支出しており、このうち、3,000千円は資本的支出に当たる。」とあるため、資本的支出の3,000千円=3,000,000円を「修繕費の損金不算入額」として加算します。
そして、修繕引当金は全てキャンセルする必要があり、「当期の決算で
はこの引当金の修繕引当金戻入を収益として計上した。」とあるため、12,000千円=12,000,000円を「修繕引当金戻入の益金不算入額」として減算に計上します。
青色申告の繰越欠損金について(2019年1月試験)。
4.繰越欠損金に関する事項
前々期に発生し、当期に繰り越した青色申告の繰越欠損金が29,000千円ある。なお、これ以外に繰越欠損金の当期への繰越しはない。
青色申告の繰越欠損金がある場合には、合計の「欠損金または災害損失金等の当期控除額」に入れて控除できます。
よって、⑥欠損金または災害損失金等の当期控除額は29,000千円=29,000,000円となります。
そして、⑦所得金額または欠損金額は、いつもの合計から⑥欠損金または災害損失金等の当期控除額を控除します。
この問題の場合、加算:57,400,000、減算:300,000、法人税額から控除される所得税額:245,040のため、
- 所得金額または欠損金額
=当期利益の額+加算-減算+⑤法人税額から控除される所得税額-⑥欠損金または災害損失金等の当期控除額
=21,654,960円+57,400,000円-300,000円+245,040円-29,000,000円
=50,000,000円
生命保険料の損金不算入額について(2017年9月試験)
3.生命保険の保険料に関する事項
当期において、契約者(=保険料負担者)をX社、被保険者を役員・従業員の全員、死亡保険金受取人を被保険者の遺族、満期保険金受取人をX社とする養老保険(特約付加なし)の保険料3,000千円について、全額を損金経理により支出している。
2017年9月試験では、ハーフタックスプランが出題されました。
被保険者を全ての役員・従業員、満期保険金受取人を法人、死亡保険金受取人を役員・従業員の遺族とする養老保険は、「ハーフタックスプラン」となり、支払保険料の2分の1を資産に計上し、2分の1を損金算入できます。
よって、「生命保険料の損金不算入額」に、3,000千円×$\frac{1}{2}$=1,500千円=1,500,000円が入ります。
不動産
不動産では、建蔽率・容積率、不動産譲渡の特例の税金計算の問題が出題されます。
不動産譲渡の特例は、居住用財産の譲渡の特例、固定資産の交換の特例、特定の事業用資産の買換え特例の3つに大別できます。
いずれもパターン化されているため、確実に解けるようにして得点源にしていきましょう。
2020年以降の出題傾向は次の通りです。
- 建蔽率・容積率:2020年1月、2020年9月、2021年1月、2021年5月、2021年9月、2022年1月、2022年5月、2022年9月、2023年1月、2023年5月、2023年9月、2024年1月、2024年5月、2024年9月、2025年1月、2025年5月
- 居住用財産の譲渡の特例:2020年1月、2021年1月、2022年9月、2023年9月、2024年1月、2024年5月、2024年9月
- 固定資産の交換の特例:2021年5月、2023年5月、2025年5月
- 特定の事業用資産の買換え特例:2020年9月、2023年1月、2025年1月
※2021年9月、2022年1月、2022年5月は、大問での不動産譲渡の特例は出題されず。
建蔽率・容積率については毎回出題されています。
不動産譲渡の特例は、居住用財産の譲渡の特例が出題されやすいですが、固定資産の交換の特例、特定の事業用資産の買換え特例についても出題されるため、全て押さえておきましょう。
必ずマスターしておくべき問題
- 建蔽率・容積率:2020年1月(基本問題)、2024年9月(セットバック)、2023年9月(川セットバック)、2025年1月(特定道路)、2024年1月(特定道路2)、2022年1月(前面道路12m以上)
- 居住用財産の譲渡の特例:2024年9月(基本問題)、2023年9月(相続税の取得費加算の特例、空き家の特例)
- 固定資産の交換の特例:2025年5月(基本問題)
- 特定の事業用資産の買換え特例:2023年1月(譲渡資産<買換資産)、2025年1月(譲渡資産>買換資産)
- 優良住宅地造成等のために土地を譲渡した場合の軽減税率の特例:2022年1月
建蔽率・容積率
建蔽率・容積率については、計算式が決まっているので、問題を繰り返し解いて全てのパターンを網羅して理解するようにしましょう。
建蔽率とは、建物の敷地面積に対する建築面積の割合です。一言で言うと、「その土地にどれだけ建物を建てていいか」というものです。
FP1級試験の応用問題では、次の式で算出します。
- 建蔽率=面積×(指定建蔽率+緩和条件)
建蔽率は、指定建蔽率が指定されますが、次の5つの緩和条件があります。
- 防火地域内に耐火建築物を建築する場合:+10%
- 準防火地域内に耐火建築物または準耐火建築物を建築する場合:+10%
- 特定行政庁の指定した角地:+10%
※問題文に記述あり。見た目が角地であっても記述がなければ加算しない。 - 上記1または2の基準を満たし、かつ3の条件を満たす場合:+20%
- 指定建蔽率80%の商業地域で、防火地域内に耐火建築物を建築する場合:100%
この5点を完璧に理解すれば、建蔽率は確実に解答できるようになります。
一言で言うと、「防火地域・準防火地域内に耐火建築物・準耐火建築物を建築するなら+10%、角地指定があれば+10%、この2つは重複する。指定建蔽率80%の場所で防火地域に耐火建築物をする場合も+20%で100%になる」です。
※防火地域では準耐火建築物には10%緩和は適用されませんが、そもそも防火地域で建築が認められるのは耐火建築物のみであるため、このケースはありません。
さらに、FP1級の応用問題については、次の2点についても押さえておいてください。
- 建築物の敷地が2以上の建蔽率が異なる地域にある場合には、それぞれの地域の建蔽率を加重平均する。
- 建築物の敷地が2以上の建蔽率が異なる地域にある場合、防火規制が異なる場合には、その両方について厳しい方が適用される。
※防火地域・準防火地域なら全てが防火地域。防火地域・防火規制なしなら全てが防火地域。準防火地域・防火規制なしなら全てが準防火地域。つまり、防火規制なしになるのは、両方が防火規制なしの場合のみ。
容積率は、建物の敷地面積に対する延べ面積(各階の合計床面積)の割合です。つまり、敷地面積に対して、どのくらいのボリューム(延べ床面積)の建物が建てられるかを決める指標となります。
FP1級試験の応用問題では、次の式で算出します。
- 容積率=面積×(適用される容積率 ※下記参照)
適用される容積率については、次のルールを覚えてください。なお、前面道路は、土地全体が接する道路で、2以上の道路に接するときは幅員が最も大きいものとなります。
- 前面道路の幅員が12m以上の場合:指定容積率が適用される
- 前面道路の幅員が12m未満の場合:指定容積率と「前面道路の幅員×法定乗数」のうち低い方が適用される。
※法定乗数:住居系の用途地域$\frac{4}{10}$ 商業系の用途地域$\frac{6}{10}$
容積率についても、用途地域ごとに加重平均するようにしてください。
- 建築物の敷地が2以上の容積率が異なる地域にある場合には、それぞれの地域の容積率を加重平均する。
さらに容積率は、建築物の敷地が、幅員15m以上の特定道路から70m以内にあり、かつ前面道路の幅員が6m以上12m未満である場合には、「前面道路の幅員×法定乗数」の前面道路の幅員には次の値が加算されます。
- W1=$\frac{(12m-前面道路の幅員)×(70m-特定道路までの距離)}{70}$
- 容積率の最高限度=(前面道路の幅員+W1)×法定乗数
つまり、この場合には、指定容積率と「(前面道路の幅員+W1)×法定乗数」のうち低い方が適用されるようになるということです。
また、4m未満の2項道路に接している場合には、面積からセットバック部分を差し引く必要があります。
- 道路の反対側が宅地の場合:道路の中心線から水平距離で2mずつ両方に後退した線が道路境界線となる。
→幅員3mなら-0.5m、幅員2mなら-1.0m - 道路の反対側が川や崖の場合:道路の反対側から4m後退した線を道路境界線とする
→幅員3mなら-1.0m、幅員2mなら-2.0m
ここまで建蔽率・容積率について問題を解くための知識を網羅してきました。問題を解くことで覚えていきましょう。
セットバックがないパターンとして、2020年1月試験を解いていきましょう。
《問61》 甲土地と乙土地とを一体とした土地の上に耐火建築物を建築する場合、次の①および②に答えなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は㎡表示とすること。なお、記載のない事項については考慮しないものとする。
① 建蔽率の上限となる建築面積はいくらか。
② 容積率の上限となる延べ面積はいくらか。

(注)
・甲土地は550㎡の長方形の土地であり、第一種住居地域に属する部分は110㎡、第二種住居地域に属する部分は440㎡である。
・乙土地は150㎡の長方形の土地であり、第一種住居地域に属する部分は30㎡、第二種住居地域に属する部分は120㎡である。
・乙土地は、建蔽率の緩和について特定行政庁が指定する角地である。
・指定建蔽率および指定容積率とは、それぞれ都市計画において定められた数値である。
・特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域ではない。
2項道路がなく、セットバックがないパターンの問題です。
各用途地域の面積は次のようになります。
- 第一種住居地域:5m×28m=140㎡
- 第ニ種住居地域:20m×28m=560㎡
①建蔽率
いずれも「準防火地域」で、耐火建築物を建築する場合のため、準防火地域に耐火建築物を建築するパターンとなり+10%緩和となります。
「乙土地は、建蔽率の緩和について特定行政庁が指定する角地である。」となっているため、甲土地と乙土地とを一体とした土地は角地となり+10%緩和となります。
いずれの用途地域の建蔽率も+20%緩和として、建蔽率は次の通りです。
- 第一種住居地域:140㎡×(50%+20%)=98㎡
- 第ニ種住居地域:560㎡×(60%+20%)=448㎡
- 建蔽率:98㎡+448㎡=546㎡
②容積率
前面道路の幅員6mに法定乗数を掛けた値と指定容積率を比較して、その小さい方に面積を掛けた値を加重平均します。
- 第一種住居地域:6m×$\frac{4}{10}$=240%>200% ∴200%
140㎡×200%=280㎡ - 第ニ種住居地域:6m×$\frac{4}{10}$=240%<300% ∴240%
560㎡×240%=1,344㎡ - 容積率:280㎡+1,344㎡=1,624㎡
セットバックがあるパターンとして、2024年9月試験を解いていきましょう。
《問62》 甲土地に耐火建築物を建築する場合、次の①および②に答えなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は㎡表示とすること。なお、記載のない事項については考慮しないものとする。
① 建蔽率の上限となる建築面積はいくらか。
② 容積率の上限となる延べ面積はいくらか。

(注)
・甲土地は320㎡の長方形の土地であり、近隣商業地域に属する部分は160㎡、第一種低層住居専用地域に属する部分は160㎡である。
・甲土地は建蔽率の緩和について特定行政庁が指定する角地ではない。
・幅員3mの公道は、建築基準法第42条第2項により特定行政庁の指定を受けた道路である。3m公道の中心線は、当該道路の中心部にある。また、3m公道の甲土地の反対側は宅地であり、がけ地や川等ではない。
・指定建蔽率および指定容積率は、それぞれ都市計画において定められた数値である。
・特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域ではない。
まず、セットバックによる面積の減少を求めます。3m公道のため、中心線より2mバックすると、横が-0.5mとなります。
各用途地域の面積は次のようになります。
- 近隣商業地域:10m×15.5m=155㎡
- 第一種低層住居専用地域:10m×15.5m=155㎡
①建蔽率
近隣商業地域の防火規制は「防火地域」となっているため、全体が「防火地域」となります。「甲土地は建蔽率の緩和について特定行政庁が指定する角地ではない。」とあるため、角地指定はありません。
近隣商業地域は指定建蔽率80%の地域でかつ、防火地域に耐火建築物を建築するため、建蔽率は100%となります。
第一種低層住居専用地域は、防火地域となり耐火建築物を建築するため+10%となります。
よって、建蔽率は次の通りです。
- 近隣商業地域:155㎡×100%=155㎡
- 第一種低層住居専用地域:155㎡×(50%+10%)=93㎡
- 建蔽率:155㎡+93㎡=248㎡
②容積率
前面道路の幅員5mに法定乗数を掛けた値と指定容積率を比較して、その小さい方に面積を掛けた値を加重平均します。
- 近隣商業地域:5m×$\frac{6}{10}$=300%<400% ∴300%
155㎡×300%=465㎡ - 第一種低層住居専用地域:5m×$\frac{4}{10}$=200%>100% ∴100%
155㎡×100%=155㎡ - 容積率:465㎡+155㎡=620㎡
セットバックが川の場合の、2023年9月試験を解いていきましょう。
《問61》 甲土地上に耐火建築物を建築する場合、次の①および②に答えなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は㎡表示とすること。なお、記載のない事項については考慮
しないものとする。
① 建蔽率の上限となる建築面積はいくらか。
② 容積率の上限となる延べ面積はいくらか。

・甲土地は352㎡の長方形の土地であり、第一種中高層住居専用地域に属する部分は224㎡、第一種低層住居専用地域に属する部分は128㎡である。
・幅員3mの公道は、建築基準法第42条第2項により特定行政庁の指定を受けた道路である。また、3m公道の甲土地の反対側は川である。
・指定建蔽率および指定容積率とは、それぞれ都市計画において定められた数値である。
・特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域ではない。
まず、セットバックによる面積の減少を求めます。3m公道で反対側が川のため、川から4mバックすると、横が-1.0mとなります。
各用途地域の面積は次のようになります。
- 第一種中高層住居専用地域:14m×15m=210㎡
- 第一種低層住居専用地域:8m×15m=120㎡
①建蔽率
第一種中高層住居専用地域の防火規制は「準防火地域」となっているため、全体が「準防火地域」となります。公道に挟まれており、明確に角地ではありません。
いずれの用途地域でも建蔽率は+10%緩和となり、建蔽率は次の通りです。
- 第一種中高層住居専用地域:210㎡×(60%+10%)=147㎡
- 第一種低層住居専用地域:120㎡×(50%+10%)=72㎡
- 建蔽率:147㎡+72㎡=219㎡
②容積率
前面道路の幅員6mに法定乗数を掛けた値と指定容積率を比較して、その小さい方に面積を掛けた値を加重平均します。
- 第一種中高層住居専用地域:6m×$\frac{4}{10}$=240%<300% ∴240%
210㎡×240%=504㎡ - 第一種低層住居専用地域:6m×$\frac{4}{10}$=240%>100% ∴100%
120㎡×100%=120㎡ - 容積率:504㎡+120㎡=624㎡
続いて、特定道路について、2025年1月試験を解いていきましょう。
《問62》 甲土地上に耐火建築物を建築する場合、次の①および②に答えなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は㎡表示とすること。なお、記載のない事項については考慮しないものとする。
① 建蔽率の上限となる建築面積はいくらか。
② 容積率の上限となる延べ面積はいくらか。なお、特定道路までの距離による容積率制限の緩和を考慮すること。

(注)
・甲土地は400㎡の長方形の土地である。
・幅員16mの県道は建築基準法第52条第9項の特定道路であり、特定道路から甲土地までの延長距離は63mである。
・指定建蔽率および指定容積率とは、それぞれ都市計画において定められた数値である。
・特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域ではない。
セットバックはなく、用途地域も近隣商業地域のため加重平均も必要ありません。
- 近隣商業地域:400㎡
①建蔽率
指定建蔽率80%の地域でかつ、防火地域に耐火建築物を建築するため、建蔽率は100%となります。
- 近隣商業地域:400㎡×100%=400㎡
- 建蔽率:400㎡
②容積率
特定道路から70m以内の場所にあるため、前面道路への加算率W1を求めます。
- W1=$\frac{(12m-前面道路の幅員)×(70m-特定道路までの距離)}{70}$
=$\frac{(12m-6m)×(70m-63m)}{70}$
=0.6m
前面道路の幅員6mにW1(=0.6m)を足して法定乗数を掛けた値と指定容積率を比較して、その小さい方に面積を掛けた値を加重平均します。
- 近隣商業地域=(6m+0.6m)×$\frac{6}{10}$=396%<400% ∴396%
400㎡×396%=1,584㎡ - 容積率:1,584㎡
特定道路のパターンで、用途地域が2つの場合について、2024年1月試験を解いていきましょう。
《問61》 甲土地に戸建て住宅(準耐火建築物)を建築する場合、次の①および②に答えなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は㎡表示とすること。なお、記載のない事項については考慮しないものとする。
① 建蔽率の上限となる建築面積はいくらか。
② 容積率の上限となる延べ面積はいくらか。なお、特定道路までの距離による容積率制限の緩和を考慮すること。

(注)
・甲土地は180㎡の長方形の土地であり、第一種住居地域に属する部分は75㎡、第一種低層住居専用地域に属する部分は105㎡である。
・指定建蔽率および指定容積率とは、それぞれ都市計画において定められた数値である。
・甲土地は、建蔽率の緩和について特定行政庁が指定する角地である。
・幅員15mの公道は、建築基準法第52条第9項の特定道路であり、特定道路から甲土地までの延長距離は56mである。
・特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域ではない。
2項道路はないため、セットバックはありません。
各用途地域の面積は次のようになります。
- 第一種住居地域:5m×15m=75㎡
- 第一種低層住居専用地域:7m×15m=105㎡
①建蔽率
第一種住居地域の防火規制は「準防火地域」となっているため、全体が「準防火地域」となります。準防火地域に準耐火建築物を建築するパターンとなり+10%緩和となります。
「甲土地は、建蔽率の緩和について特定行政庁が指定する角地である。」と記述されているため、角地となり+10%緩和となります。
いずれの用途地域の建蔽率も+20%緩和となり、建蔽率は次の通りです。
- 第一種住居地域:75㎡×(60%+20%)=60㎡
- 第一種低層住居専用地域:105㎡×(40%+20%)=63㎡
- 建蔽率:60㎡+63㎡=123㎡
②容積率
特定道路から70m以内の場所にあるため、前面道路への加算率W1を求めます。
- W1=$\frac{(12m-前面道路の幅員)×(70m-特定道路までの距離)}{70}$
=$\frac{(12m-6m)×(70m-56m)}{70}$
=1.2m
前面道路の幅員6mにW1(=1.2m)を足して法定乗数を掛けた値と指定容積率を比較して、その小さい方に面積を掛けた値を加重平均します。
- 第一種住居地域:(6m+1.2m)×$\frac{4}{10}$=288%<300% ∴288%
75㎡×288%=216㎡ - 第一種低層住居専用地域:(6m+1.2m)×$\frac{4}{10}$=288%>80% ∴80%
105㎡×80%=84㎡ - 容積率:216㎡+84㎡=300㎡
前面道路が12m以上の場合の容積率について、2022年1月試験を解いていきましょう。
《問61》次の①・②に答えなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は㎡表示とすること。なお、記載のない事項については考慮しないものとする。
①乙土地上に耐火建築物(マンション)を建築する場合、容積率の上限となる延べ面積はいくらか。
②甲土地と乙土地を一体とした土地上に耐火建築物(マンション)を建築する場合、容積率の上限となる延べ面積はいくらか。

(注)
・甲土地は400㎡の正方形の土地であり、乙土地は1,500㎡の長方形の土地である。
・指定建蔽率および指定容積率とは、それぞれ都市計画において定められた数値である。
・特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域ではない。
・甲土地および乙土地は、普通商業・併用住宅地区に所在する。
①乙土地の容積率
乙土地は、近隣商業地域の1,500㎡の土地です。なお、特定道路がありますが、前面道路が6m未満のため加算はありません。
前面道路の幅員4mに法定乗数を掛けた値と指定容積率を比較して、その小さい方に面積を掛けた値を加重平均します。
- 近隣商業地域:4m×$\frac{6}{10}$=240%<300% ∴240%
1,500㎡×240%=3,600㎡ - 容積率:3,600㎡
②甲土地と乙土地を一体とした土地の容積率
甲土地と乙土地を一体とした土地の面積は、1,500㎡+400㎡=1,900㎡となります。
この土地は、前面道路が県道15mとなるため、容積率は指定容積率となります。
- 容積率=1,900㎡×300%=5,700㎡
※この問題は分かれば瞬殺できる問題です。前面道路が12m以上の場合についてもしっかりと押さえておきましょう。
不動産譲渡の特例
不動産譲渡の特例では、居住用財産の譲渡の特例、固定資産の交換の特例、特定の事業用資産の買換え特例の3種類の問題が出題されます。
居住用財産の譲渡の特例
居住用財産の譲渡の特例には、次の5つがあります。
- 居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除
- 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の特例(軽減税率の特例)
- 特定の居住用財産の買換え特例
- 被相続人の居住用財産(空家)の譲渡所得の特別控除
- 居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
学科では適用条件の知識なども必要となりますが、応用では数値さえ覚えておけば解けます。
また、「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」については出題されたことがありません。
それぞれの要点は次の通りです。
- 居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除:3,000万円を控除できる、「相続税の取得費加算の特例」と併用できる
- 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の特例(軽減税率の特例):6,000万円以下の部分の税率が14.21%(所得税10%、復興特別所得税0.21%、住民税4%)になる
- 特定の居住用財産の買換え特例:譲渡所得から買換資産の取得価額を控除できる、他の特例と併用不可
- 被相続人の居住用財産(空家)の譲渡所得の特別控除:3,000万円を控除できる、「相続税の取得費加算の特例」と併用できない
計算における、その他の共通点としては、次の点が挙げられます。
- 譲渡所得=譲渡収入-(取得費+譲渡費用)
- 取得費が不明の場合には概算取得費を用いる。
概算取得費=譲渡価額×5% - 長期譲渡所得の税率は20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)
※「軽減税率の特例」を適用できる場合には6,000万円以下の部分が14.21%(所得税10%、復興特別所得税0.21%、住民税4%)
「特定の居住用財産の買換え特例」の場合には、(取得費+譲渡費用)は按分計算する必要があります。例えば、譲渡価額が8,000万円、買換資産が6,000万円だった場合には、ネットの収入は2,000万円となるため、(取得費+譲渡費用)×$\frac{2,000万円}{8,000万円}$として収入から引きます。
「相続税の取得費加算の特例」を適用できる場合には、取得費に加算でき、「概算取得費」と併用できます。
- 相続税の取得費加算の特例=納付相続税額×$\frac{譲渡した土地・建物に係る相続税評価額}{相続税の課税価格(※債務控除前)}$
なお、「相続税の取得費加算の特例」の分母の金額は債務控除前の金額となり、分子の不動産の相続税評価額は「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」を適用した後の金額になります。
以上が、不動産譲渡の特例の計算問題を解く上で必要な知識となります。問題を通して覚えていきましょう。
2024年9月試験を解いていきましょう。
《問61》 Aさんが、下記の〈譲渡資産および買換資産に関する資料〉に基づき、自宅を買い換えた場合、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は100円未満を切り捨てて円単位とすること。なお、本問の譲渡所得以外の所得や所得控除等は考慮しないものとする。
① 「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」の適用を受けた場合の譲渡所得の金額に係る所得税および復興特別所得税、住民税の合計額はいくらか。
② 「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」および「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」の適用を受けた場合の譲渡所得の金額に係る所得税および復興特別所得税、住民税の合計額はいくらか。〈譲渡資産および買換資産に関する資料〉
・譲渡資産の譲渡価額 : 8,000万円
・譲渡資産の取得費 : 不明
・譲渡費用 : 480万円
・買換資産の取得価額 : 7,600万円
まずは、概算取得費を求めます。
- 概算取得費=8,000万円×5%=400万円
①「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」
収入金額を求めます。譲渡資産の譲渡価額から買換資産の取得価額を引いた値です。
- 収入金額=8,000万円-7,600万円=400万円
取得費および譲渡費用を按分して求めます。
- 取得費および譲渡費用
=(400万円+480万円)×$\frac{400万円}{8,000万円}$
=44万円
課税長期譲渡所得を求めます。
- 課税長期譲渡所得=400万円-44万円=356万円
税額(所得税および復興特別所得税、住民税の合計額)は次の通りです。
- 税額=356万円×20.315%=723,214円→723,200円
②「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」および「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」
課税長期譲渡所得を求めます。譲渡価額から取得費・譲渡費用を引き、さらに3,000万円控除を引いた値です。
- 課税長期譲渡所得
=8,000万円-(400万円+480万円)-3,000万円
=4,120万円
税額を求めますが、「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」の適用を受けられるため、6,000万円以下の全額が14.21%となります。
- 税額=4,120万円×14.21%=5,854,520円→5,854,500円
基本的に、ほぼこのような問題となり、数値を変えるだけで解くことができます。
「相続税の取得費加算の特例」と空き家の特例が出題された、2023年9月試験を解いていきましょう。
《問62》 Aさんが、相続した家屋を取り壊し、以下の〈条件〉でその敷地である甲土地を譲渡した場合、次の①~③に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は100円未満を
切り捨てて円単位とすること。なお、譲渡所得以外の所得や所得控除等は考慮しないものとする。
① 「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」の適用を受けた場合の課税長期譲渡所得金額はいくらか。
② 「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」(相続税の取得費加算の特例)の適用を受けた場合の課税長期譲渡所得金額はいくらか。
③ 上記①で求めた金額と上記②で求めた金額のいずれか低い金額に係る所得税額、復興特別所得税額および住民税額の合計額はいくらか。〈条件〉
〈譲渡資産(甲土地)に関する資料〉
・譲渡資産の譲渡価額:4,900万円
・譲渡資産の所有期間:45年
・譲渡資産の取得費 :不明
・譲渡費用 :900万円(家屋の取壊し費用、仲介手数料等)〈父親の相続に関する資料〉
・相続人 :Aさん(ほかに相続人はいない)
・甲土地の相続税評価額 :3,600万円(甲土地以外に相続した土地等はない)
・Aさんの相続税の課税価格:7,900万円(債務控除100万円を控除した後の金額。相続時精算課税の適用はない)
・Aさんが納付した相続税額:660万円(贈与税額控除、相次相続控除は受けていない)
まずは、概算取得費を求めます。
- 概算取得費=4,900万円×5%=245万円
① 「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」
課税長期譲渡所得を求めます。譲渡価額から取得費・譲渡費用を引き、さらに空き家の特例で3,000万円控除を引いた値です。
- 課税長期譲渡所得
=4,900万円-(245万円+900万円)-3,000万円
=755万円
→7,550,000円
② 「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」(相続税の取得費加算の特例)
「相続税の取得費加算の特例」で加算できる金額を求めます。按分する分母は債務控除前の金額である点に注意してください。
- 相続税の取得費加算の特例
=660万円×$\frac{3,600万円}{7,900万円+100万円}$
=297万円
課税長期譲渡所得を求めます。譲渡価額から取得費・譲渡費用・「相続税の取得費加算の特例」を引いた値です。
- 課税長期譲渡所得
=4,900万円-(245万円+900万円+297万円)
=3,458万円
→34,580,000円
③ 所得税額、復興特別所得税額および住民税額の合計額
①の課税長期譲渡所得755万円から、税額を求めます。
- 税額=755万円×20.315%=1,533,782.5円→1,533,700円
固定資産の交換の特例
固定資産の交換の特例の場合にも、基本的には、居住用財産の譲渡の特例の場合と考え方は同じです。
次の点をチェックしておきましょう。
- 課税長期譲渡所得を求める上で、収入金額=交換差金等となる。
- 譲渡所得=交換差金-(取得費+譲渡費用)
- 取得費が不明の場合には概算取得費を用いる。
概算取得費=譲渡価額×5% - 交換費用について「譲渡と取得の費用区分は不明」となっていた場合には、50%を乗じた金額を譲渡費用とする。
- 長期譲渡所得の税率は20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)
特に、収入金額=交換差金等となること、「譲渡と取得の費用区分は不明」となっていた場合には交換費用の50%を譲渡費用とする点に注意が必要です。
また、(取得費+譲渡費用)は按分計算する必要があります(考え方は買換え特例と同じです)。例えば、譲渡価額が3,000万円、交換差金等が300万円だった場合には、収入は300万円となるため、(取得費+譲渡費用)×$\frac{300万円}{3,000万円}$として収入から引きます。
それでは、実際の問題として、2025年5月試験を解いていきましょう。
《問61》 Aさんが、下記の〈条件〉で借地権と所有権(底地)を交換し、「固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例」の適用を受けた場合、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は100円未満を切り捨てて円単位とすること。なお、本問の譲渡所得以外の所得や所得控除等は考慮しないものとする。
① 課税長期譲渡所得金額はいくらか。
② 課税長期譲渡所得金額に係る所得税および復興特別所得税、住民税の合計額はいくらか。〈条件〉
〈交換譲渡資産〉
・交換譲渡資産 : 借地権(旧借地法による借地権)
※2012年10月に相続(単純承認)により取得
・交換譲渡資産の取得費 : 不明
・交換譲渡資産の時価 : 2,400万円(交換時)
・交換費用(仲介手数料等): 80万円(譲渡と取得の費用区分は不明)〈交換取得資産〉
・交換取得資産 : 所有権(底地)
・交換取得資産の時価 : 2,280万円(交換時)
〈交換差金〉
・AさんがBさんから受領した交換差金 : 120万円
①課税長期譲渡所得金額
収入金額=交換差金等となるため、
- 収入=120万円
概算取得費を求めます。
- 概算取得費=2,400万円×5%=120万円
譲渡費用について、交換費用(仲介手数料等)80万円は「譲渡と取得の費用区分は不明」となっているため、50%とします。
- 譲渡費用=80万円×50%=40万円
取得費および譲渡費用について、按分します。
- 取得費および譲渡費用
=(120万円+40万円)×$\frac{120万円}{2,400万円}$
=8万円
課税長期譲渡所得金額は、次の通りです。
- 課税長期譲渡所得金額=120万円-8万円=112万円→1,120,000円
②所得税および復興特別所得税、住民税の合計額
税額を求めます。
- 税額=112万円×20.315%=227,528円→227,500円
特定の事業用資産の買換え特例
「特定の事業用資産の買換え特例」は、基本的な考え方は「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」の場合と同じです。
一言で言うと、譲渡資産の価格から、買換資産の価格の80%(原則)を差し引けるというものです。
ただ、譲渡資産の価格と買換資産の価格によって、計算式が次のように異なるため注意が必要です。
- 譲渡資産<買換資産の場合
収入金額=譲渡資産の譲渡価額-譲渡資産の譲渡価額×80% - 譲渡資産>買換資産の場合
収入金額=譲渡資産の譲渡価額-買換資産の譲渡価額×80%
つまり、譲渡資産の価額から、譲渡資産・買換資産のいずれか低い方の80%を引くということになります。
取得費は不明なら概算取得費を使います。
(取得費+譲渡費用)は、$\frac{収入金額}{譲渡資産の譲渡価額}$で按分計算する必要があります。収入金額は、上述したように、譲渡資産の価格と買換資産の価格によって異なる点に注意しておきましょう。
実際の問題を解いていきましょう。
2023年1月試験は、次の通りです。
《問61》 Aさんが、以下の〈条件〉で事業用資産である土地を譲渡し、甲土地を取得して、「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の適用を受けた場合、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し〈答〉は100円未満を切り捨てて円単位とすること。なお、課税の繰延割合は80%であるものとし、本問の譲渡所
得以外の所得や所得控除等は考慮しないものとする。
① 課税長期譲渡所得金額はいくらか。
② 課税長期譲渡所得金額に係る所得税および復興特別所得税、住民税の合計額はいくらか。〈条件〉
〈譲渡資産および買換資産(甲土地)に関する資料〉
・譲渡資産の譲渡価額:8,000万円
・譲渡資産の所有期間:41年
・譲渡資産の取得費 :不明
・譲渡費用 :700万円(仲介手数料、建物の解体撤去費用等)
・買換資産の面積 :350㎡
・買換資産の取得価額:1億円
①課税長期譲渡所得金額
概算取得費は次の通りです。
- 概算取得費=8,000万円×5%=400万円
収入金額を求めます。譲渡資産8,000万円<買換資産1億円のため、譲渡資産の80%を引きます。
- 収入金額=8,000万円-8,000万円×80%=1,600万円
取得費および譲渡費用を按分して求めます。
- 取得費および譲渡費用
=(400万円+700万円)×$\frac{1,600万円}{8,000万円}$
=220万円
課税長期譲渡所得を求めます。
- 課税長期譲渡所得=1,600万円-220万円=1,380万円→13,800,000円
②所得税および復興特別所得税、住民税の合計額
税額を求めます。
- 税額=1,380万円×20.315%=2,803,470円→2,803,400円
続いて、譲渡資産>買換資産となっていた、2025年1月試験を解いてみましょう。
《問61》 Aさんが、下記の〈条件〉で事業用資産である土地を譲渡し、甲土地を取得して、「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の適用を受けた場合、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は100円未満を切り捨てて円単位とすること。なお、課税の繰延割合は80%であるものとし、本問の譲渡所得以外の所得や所得控除等は考慮しないものとする。
① 課税長期譲渡所得金額はいくらか。
② 課税長期譲渡所得金額に係る所得税および復興特別所得税、住民税の合計額はいくらか。〈条件〉
〈譲渡資産および買換資産(甲土地)に関する資料〉
・譲渡資産の面積 : 500㎡
・譲渡資産の譲渡価額 : 1億円
・譲渡資産の所有期間 : 40年
・譲渡資産の取得費 : 不明
・譲渡費用 : 500万円(仲介手数料等)
・買換資産の面積 : 400㎡
・買換資産の取得価額 : 9,500万円
①課税長期譲渡所得金額
概算取得費は次の通りです。
- 概算取得費=1億円×5%=500万円
収入金額を求めます。譲渡資産1億円>買換資産9,500万円のため、買換資産の80%を引きます。
- 収入金額=1億円-9,500万円×80%=2,400万円
取得費および譲渡費用を按分して求めます。
- 取得費および譲渡費用
=(500万円+500万円)×$\frac{2,400万円}{1億円}$
=240万円
課税長期譲渡所得を求めます。
- 課税長期譲渡所得=2,400万円-240万円=2,160万円→21,600,000円
②所得税および復興特別所得税、住民税の合計額
税額を求めます。
- 税額=2,160万円×20.315%=4,388,040円→4,388,000円
優良住宅地造成等のために土地を譲渡した場合の軽減税率の特例
「優良住宅地造成等のために土地を譲渡した場合の軽減税率の特例」はごくたまに出例されます。
売却年の1月1日において、所有期間5年超の土地等を優良住宅地の造成等のために譲渡した場合には、長期譲渡所得のうち2,000万円までの所得税(復興特別所得税を含む)の税率が10.21%、住民税が4%となり、合計14.21%に軽減されます。
考え方としては「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」と同様で、こちらは閾値が2,000万円になったものです。
2022年1月試験を解いていきましょう。
〈乙土地の売却〉
II 「下記の〈資料〉に基づき、Aさんの父親が乙土地を譲渡し、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例の適用を受けた場合、当該譲渡所得の金額に係る所得税および復興特別所得税、住民税の合計額は( ② )円となります。他方、Aさんが父親の相続により取得した乙土地を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に譲渡した場合、譲渡した乙土地に対応する部分の相続税額を取得費に加算することができます」〈空欄②の譲渡資産(乙土地)の売却に関する資料〉
・譲渡資産の譲渡価額:5億円
・譲渡資産の取得費 :不明
・譲渡費用 :1,500万円
※税額は、100円未満を切り捨てること。
※本問の譲渡所得以外の所得や所得控除等は考慮しない。
概算取得費を求めます。
- 概算取得費=5億円×5%=2,500万円
課税長期譲渡所得を求めます。
- 課税長期譲渡所得=5億円-(2,500万円+1,500万円)=46,000万円
「優良住宅地造成等のために土地を譲渡した場合の軽減税率の特例」を適用した税額を求めます。2,000万円以下は14.21%、2,000万円超は20.315%です。
- 2,000万円以下の税額=2,000万円×14.21%=284.2万円
- 2,000万円超の税額=44,000万円×20.315%=8,938.6万円
- 税額合計=284.2万円+8,938.6万円=9,222.8万円→92,228,000円
相続・事業継承
相続では、小規模宅地等の特例と相続税の計算、自社株の評価の問題が出題されます。
自社株の評価の方が簡単です。
相続税の計算問題は、年金に次ぐ難易度かと思います。
2020年以降の出題傾向は次の通りです。
- 小規模宅地等の特例と相続税の計算:2021年5月、2023年5月、2023年9月、2024年5月、2025年1月
- 自社株の評価:2020年1月、2020年9月、2021年1月、2021年9月、2022年1月、2022年5月、2022年9月、2023年1月、2024年1月、2024年9月、2025年5月
自社株の評価の方が出やすくなっていますが、相続税の計算についても対策はマストです。
必ずマスターしておくべき問題
- 小規模宅地等の特例と相続税の計算:2021年5月、2023年5月、2023年9月、2024年5月、2025年1月、(2018年9月(死亡保険金控除の按分など)、2019年9月(実子の数)、2019年5月(債務控除))
- 自社株の評価:2025年5月(基本問題)、2023年1月(業種区分)
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の評価減の特例について、限度面積と減額割合は、次のようになります。
- 特定居住用宅地等:限度面積330㎡ 減額割合80%
- 特定事業用宅地等:限度面積400㎡ 減額割合80%
- 貸付事業用宅地等:限度面積200㎡ 減額割合50%
適用面積の調整ルールについては、次の2点を押さえておいてください。
- 減額される金額が最大となるように、特定居住用宅地等と特定事業用宅地等から優先して適用する。
- 特定居住用宅地等と特定事業用宅地等については、それぞれの限度面積まで完全併用できる。
→最大で、特定居住用宅地等330㎡、特定事業用宅地等400㎡の合計730㎡まで。 - 貸付事業用宅地等については、次の式により調整する必要がある。
特定居住用宅地等の適用面積×$\frac{200}{330}$+特定事業用宅地等の適用面積×$\frac{200}{400}$+貸付事業用宅地等の適用面積≦200㎡
つまり、貸付事業用宅地等の適用面積≦200㎡-特定居住用宅地等の適用面積×$\frac{200}{330}$-特定事業用宅地等の適用面積×$\frac{200}{400}$
また、適用面積を求めた上で、土地の評価額まで求められる場合があります。特定居住用宅地等の自宅は自用地評価額、特定事業用宅地等は使用貸借の場合は自用地評価額、貸付事業用宅地等は賃貸アパートの場合は貸家建付地として評価します。
- 貸家建付地の評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
基本問題として、2025年1月試験を解いていきましょう。
《問63》 仮に、Aさんが現時点(2025年1月26日)において死亡し、《設例》の〈Aさんが所有している土地に関する資料〉に基づき、相続税の課税価格の計算上、減額される金額が最大となるように「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用を受ける場合、貸付事業用宅地等として適用を受けることができる面積を求めなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は㎡単位とすること。なお、甲土地のうち自宅に対応する部分は特定居住用宅地等、賃貸マンションに対応する部分は貸付事業用宅地等、乙土地は特定事業用宅地等にそれぞれ該当するものとする。
〈Aさんが所有している土地に関する資料〉
・甲土地(Aさんが所有している自宅兼賃貸マンションの敷地)
宅地面積 : 198㎡ 自用地価額 : 4,200万円
借地権割合 : 60% 借家権割合 : 30%
※甲土地上にある自宅兼賃貸マンションは3階建て(360㎡)であり、各階の床面積は同一である(各階120㎡)。
※3階部分はAさんの自宅として使用し、妻Bさんおよび長男Cさん家族と同居している。1階および2階部分は賃貸の用に供している(入居率100%)。
・乙土地(Aさんが所有している事業用建物の敷地)
宅地面積 : 100㎡ 自用地価額 : 2,000万円
借地権割合 : 60% 借家権割合 : 30%
※長男CさんがAさんから使用貸借により乙土地上の建物を借り受けて事業を営んでいる。
まずは、特定居住用宅地等と特定事業用宅地等の適用面積を求めていきます。
特定居住用宅地等に該当するのは、甲土地の3階部分となります。
- 特定居住用宅地等の適用面積=198㎡×$\frac{120}{360}$=66㎡
特定事業用宅地等に該当するのは、乙土地となります。
- 特定事業用宅地等の適用面積=100㎡
ここから貸付事業用宅地等の適用面積を求めていきます。
貸付事業用宅地等に該当するのは、甲土地の1階および2階部分です(※ここで求めるのは、適用面積ではなく最大面積である点に注意してください)。
- 貸付事業用宅地等の最大面積=198㎡×$\frac{240}{360}$=132㎡
貸付事業用宅地等の適用面積を、次の式から求めます。
- 特定居住用宅地等の適用面積×$\frac{200}{330}$+特定事業用宅地等の適用面積×$\frac{200}{400}$+貸付事業用宅地等の適用面積=200㎡
- 66㎡×$\frac{200}{330}$+100㎡×$\frac{200}{400}$+貸付事業用宅地等の適用面積=200㎡
- 貸付事業用宅地等の適用面積=200㎡-40㎡-50㎡=110㎡<132㎡ ∴110㎡
貸付事業用宅地等の適用面積を求めた上で、評価額を求める問題が出題される場合もあります。2021年5月試験を解いていきましょう。
《問63》仮に、Aさんが現時点(2021年5月23日)において死亡した場合、《設例》の〈Aさんが所有している甲土地および乙土地に関する資料〉に基づき、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」適用後の相続税の課税価格に算入すべき①甲土地の価額と②乙土地の価額を、それぞれ求めなさい(計算過程の記載は不要)〈答〉は万円単位とすること。なお、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用にあたって、甲土地のうち自宅に対応する部分は特定居住用宅地等、賃貸アパートに対応する部分は貸付事業用宅地等、乙土地は特定事業用宅地等にそれぞれ該当するものとし、課税価格の計算上、減額される金額の合計額が最大となるように計算すること。
《設例》
Aさんは、甲土地と乙土地を所有している。甲土地はAさんが所有する3階建ての賃貸アパートの敷地であり、Aさんはその賃貸アパートの3階部分を自宅として居住の用に供し、1階および2階部分は賃貸の用に供している。乙土地はAさんが所有する事業用建物の敷地であり、長女Cさんがその事業用建物をAさんから使用貸借により借り受けて雑貨店を営んでいる。〈Aさんが所有している甲土地および乙土地に関する資料〉
(1) 甲土地(Aさんが所有している自宅兼賃貸アパートの敷地)
宅地面積 :198㎡
自用地評価額:3,600万円
借地権割合 :60%
借家権割合 :30%
※甲土地上にある賃貸アパートは3階建て(300㎡)であり、各階の床面積は同一である(各階100㎡)。
※3階部分はAさんが妻Bさんおよび長女Cさん家族とともに自宅として使用し、1階および2階部分は第三者に賃貸している(入居率100%)。(2) 乙土地(Aさんが所有している事業用建物の敷地)
宅地面積 :188㎡
自用地評価額:4,000万円
借地権割合 :60%
※乙土地上にある事業用建物は長女Cさんが無償で貸与を受けて使用している。
まずは、特定居住用宅地等と特定事業用宅地等の適用面積を求めていきます。
特定居住用宅地等に該当するのは、甲土地の3階部分となります。
- 特定居住用宅地等の適用面積=198㎡×$\frac{100}{300}$=66㎡
特定事業用宅地等に該当するのは、乙土地となります。
- 特定事業用宅地等の適用面積=188㎡
ここから貸付事業用宅地等の適用面積を求めていきます。
貸付事業用宅地等に該当するのは、甲土地の1階および2階部分です(※ここで求めるのは、適用面積ではなく最大面積である点に注意してください)。
- 貸付事業用宅地等の最大面積=198㎡×$\frac{200}{300}$=132㎡
貸付事業用宅地等の適用面積を、次の式から求めます。
- 特定居住用宅地等の適用面積×$\frac{200}{330}$+特定事業用宅地等の適用面積×$\frac{200}{400}$+貸付事業用宅地等の適用面積=200㎡
- 66㎡×$\frac{200}{330}$+188㎡×$\frac{200}{400}$+貸付事業用宅地等の適用面積=200㎡
- 貸付事業用宅地等の適用面積=200㎡-40㎡-94㎡=66㎡<132㎡ ∴66㎡
ここから、各土地の価額を求めていきます。
①甲土地の価額
特定居住用宅地等の部分は、自用地評価額となり、66㎡を80%減額できます。
- 自用地評価額=3,600万円×$\frac{66㎡}{198㎡}$=1,200万円
- 特例適用後の価額=1,200万円-1,200万円×80%=240万円
貸付事業用宅地等の部分は、貸家建付地となり、66㎡を50%減額できます。特例適用時には按分計算して50%減額とする点に注意してください。
- 自用地評価額=3,600万円×$\frac{132㎡}{198㎡}$=2,400万円
- 貸家建付地の評価額
=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
=2,400万円×(1-60%×30%×100%)
=1,968万円 - 特例適用後の価額=1,968万円-1,968万円×$\frac{66㎡}{132㎡}$×50%=1,476万円
よって、甲土地の価額=240万円+1,476万円=1,716万円
②乙土地の価額
使用貸借している特定事業用宅地等は、自用地評価額で評価した上で、80%減額します。
- 自用地評価額=4,000万円
- 特例適用後の価額=4,000万円-4,000万円×80%=800万円
路線価方式
路線価方式から不動産評価額を求める問題は、学科でも重要ですが、応用でも不動産か相続で時々出題されます。
路線価図が示しているのは次の2つです。例えば、200Dの場合は、20万円の借地権割合60%となります。
- アルファベットは借地権割合を示している。C:70%を基準に、B:80%、D:60%と10%刻みとなっている。
- 数値は千円を示している。200だったら、200千円=20万円となる。
1つの道路に面している宅地の自用地評価額は、次の通りです。
- 自用地評価額=路線価×奥行価格補正率×地積
奥行とは、道路に面していない方の辺です。
例えば、20m×10mの土地で、道路に接しているのが横20mの場合には、奥行は縦10mとなります。
2つの路線(正面と側方)に面している角地の宅地の自用地評価額は、次の通りです。応用で最も出題されやすいのは、このケースです。
- 自用地評価額=(a+b)×地積
a:正面路線価×奥行価格補正率 /* 正面路線価の高い方 */
b:側方路線価×奥行価格補正率×側方路線影響加算率(※)
※側方路線影響加算率:十字路とT字路は角地、L字路は準角地
2つの路線(正面と裏面)に面している宅地の自用地評価額は、次の通りです。
- 自用地評価額=(a+b)×地積
a:正面路線価×奥行価格補正率 /* 正面路線価の高い方 */
b:裏面路線価×奥行価格補正率×二方路線影響加算率
このケースは実技では出題されますが、応用では出題されたことがありません。ただ、考え方としては、正面路線価の高い方に裏面路線価をわずかに追加して計算するという考え方は同じです。
それでは、実際の問題を解いてみましょう。
合格率3.51%を叩きだした2023年5月試験では、不動産の評価額でもやや変化球的な問題が出題されました。
《問63》《設例》のAさんが所有する自宅敷地、貸家建付地の概要に基づき、次の①および②について「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用前の相続税評価額をそれぞれ求めなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は万円単位とすること。
① 貸家建付地
② 自宅敷地

※自宅敷地は500㎡の長方形の土地であり、貸家建付地は225㎡の正方形の土地である。
※自宅敷地および貸家建付地は、市街化区域内の普通住宅地区に所在し、地積規模の大きな宅地に該当しない。
※賃貸アパートの借家権割合は30%、賃貸割合は100%とする。
① 貸家建付地
図の賃貸アパート(貸家建付地225㎡)の評価額を求めていきます。
路線価から自用地評価額を求めます。路線価は200Eのため、200千円=20万円、借地権割合50%となります。奥行価格補正率は縦15mの1.00です。
- 自用地評価額=20万円×1.00×225㎡=4,500万円
貸家建付地のため、次のようになります。
- 貸家建付地の評価額
=4,500万円×(1-50%×30%×100%)
=3,825万円
② 自宅敷地
図の自宅建物(自宅敷地500㎡)の評価額を求めていきます。
2つの路線(正面と側方)に面している角地の宅地となり、L字のため準角地となります。
路線価はいずれも200E(200千円=20万円)と同じですが、奥行価格補正率の差から奥行20mの方が高いため、こちらが正面路線価となります。
- 自用地評価額=(a+b)×地積
a:20万円×1.00=20万円
b:20万円×0.97×0.02=3,880円
∴(20万円+3,880円)×500㎡=10,194万円
相続税の計算
相続税の計算は、総合問題として出題されます。まず最初は、どの過去問でもいいので、解法の流れを理解暗記してください。
解法の流れを理解暗記してから、各論の知識を身に着けていってもらえればと思います。
なお、法定相続分については、学科対策の方で身に着けていってもらえたらと思います。本コンテンツでは詳細には解説しません。学科で出題される法定相続分に比べると、そこまでイジワルな問題は出にくいですが、普通養子や二重身分の計算についてはマストで押さえておく必要はあります。
2021年5月試験を解いていきましょう。
《問63》仮に、Aさんが現時点(2021年5月23日)において死亡し、孫Eさんに係る相続税の課税価格が600万円、相続税の課税価格の合計額が1億2,000万円である場合、①相続税の総額および②孫Eさんの納付すべき相続税額をそれぞれ求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は万円単位とすること。
Aさんの親族関係図およびAさんが所有している土地に関する資料は、以下のとおりである。なお、Aさんは、Dさん、孫Eさんおよび孫Fさんとそれぞれ普通養子縁組(特別養子縁組以外の縁組)をしているが、Dさんは病気により既に他界している。また、孫Gさんおよび孫Hさんは、AさんとDさんの普通養子縁組後に誕生している。

①相続税の総額
まずは、遺産に係る基礎控除額と法定相続分を求めます。法定相続人は、(1)妻Bさん、(2)長女Cさん、Dさんの代襲相続人の(3)孫Gさん、(4)孫Hさん。普通養子として1人:(5)孫Eさんか孫Fさんとなります。よって5人です。
- 遺産に係る基礎控除額=3,000万円+600万円×5人=6,000万円
- 法定相続分 Bさん$\frac{1}{2}$ Cさん$\frac{1}{6}$ Gさん$\frac{1}{12}$ Hさん$\frac{1}{12}$ Eさん$\frac{1}{6}$
※法定相続分の考え方:まず妻Bさんが$\frac{1}{2}$となる。子は$\frac{1}{2}$を分ける。Cさん、Dさん、普通養子1人の3人で分ける(=$\frac{1}{6}$ずつ)ことになり、Dさんの代襲相続人であるGさんとHさんはDさんの分を2人で分ける。今回は二重身分はない。
課税遺産総額(=課税価格の合計額-基礎控除)を求めます。
- 課税遺産総額=1億2,000万円-6,000万円=6,000万円
法定相続人の法定相続分に応じた取得金額から税額を求めます(課税遺産総額×法定相続分を算出して、相続税の速算表で計算する)。
※法定相続分の割合が同じ人でまとめて計算すると計算しやすくなります。以下ではそうしています。
- Bさん
6,000万円×$\frac{1}{2}$=3,000万円
3,000万円×15%-50万円=400万円 …① - Cさん、Eさん
6,000万円×$\frac{1}{6}$=1,000万円
1,000万円×10%=100万円
100万円×2人=200万円 …② - Gさん、Hさん
6,000万円×$\frac{1}{12}$=500万円
500万円×10%=50万円
50万円×2人=100万円 …③
よって、相続税の総額は次の通り。
- 相続税の総額=①+②+③=400万円+200万円+100万円=700万円
②孫Eさんの納付すべき相続税額
各人が納付すべき相続税額は、算出税額=相続税の総額×$\frac{各人の課税価格}{課税価格の合計額}$を求めた上で、2割加算→未成年者控除、贈与税納付額などを控除して算出します。
孫Eさんの算出税額は次の通りです。
- 孫Eさんの算出税額=700万円×$\frac{600万円}{1億2,000万円}$=35万円
孫Eさんは代襲相続人ではない孫のため2割加算の対象となります。
- 孫Eさんの納付すべき相続税額=35万円×1.2=42万円
相続税の計算は、まずこの流れを自分の手を動かして理解暗記してください。なお、相続税の計算は、年金計算と並んで実生活でも役立つ知識です。
上記の説明文は飛ばし、計算部分を繰り返し手で書いて、解法過程を理解暗記するようにしましょう。各論の理解はそれからです。
2023年5月試験を解いていきましょう。
《問64》 仮にAさんが現時点(2023年5月28日)で死亡し、長男Cさんに係る相続税の課税価格が1億1,070万円である場合、《設例》の〈Aさんに関する資料〉に基づき、次の①~③に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は万円単位とすること。なお、《問63》の答にかかわらず、自宅敷地の相続税評価額は1億円、貸家建付地の相続税評価額は4,000万円(いずれも「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用前の金額)とすること。また、自宅建物およびその敷地を妻Bさんが相続して、自宅敷地について「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用を受けるものとする。
① 課税価格の合計額はいくらか。
② 相続税の総額はいくらか。
③ 長男Cさんの納付すべき相続税額はいくらか。《設例》
Aさんは、相続対策の一環として、2022年10月に長男Cさん(42歳)に暦年贈与により560万円を贈与しているが、さらに、二男Dさん(38歳)に贈与税の非課税措置を利用して住宅取得資金の援助を行うことも考えている。
Aさんに関する資料は、以下のとおりである。

(3) Aさんが所有する財産(相続税評価額)
現預金 :1億4,500万円
上場株式 :1億3,000万円
自宅建物 :2,500万円
自宅敷地 :1億円(※1)
賃貸アパート:2,000万円
貸家建付地 :4,000万円(※1)
※1「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用前の金額(4) Aさんが加入している生命保険の契約内容
保険の種類 :終身保険
契約年月 :1995年4月
契約者(=保険料負担者)・被保険者:Aさん
死亡保険金受取人 :妻Bさん
死亡保険金額 :5,000万円
①課税価格の合計額
Aさんが所有する財産のうち、自宅敷地および貸家建付地について「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用前の金額となっているため、適用後の金額を求めます。
自宅敷地について特定居住用宅地等330㎡が全て適用され、貸家建付地はありません。
- 自宅敷地の評価額
=1億円-1億円×$\frac{330㎡}{500㎡}$×80%
=1億円-5,280万円
=4,720万円 - 貸家建付地の評価額=4,000万円(※変更なし)
続いて、課税価格に算入される死亡保険金の額を求めます。相続人が受け取る死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」だけ非課税となります。法定相続人は4人です(詳しくは後述)。
- 課税価格に算入される死亡保険金=5,000万円-500万円×4人=3,000万円
さらに、設例文には「2022年10月に長男Cさん(42歳)に暦年贈与により560万円を贈与している」とあります。相続開始前3年以内の贈与であるため、相続税の課税価格に算入する必要があります。
※相続税の問題については、このように設例文までしっかりと読んでおく必要があります。
課税価格の合計額は次の通りです。
- 課税価格の合計額
=1億4,500万円(現預金)+1億3,000万円(上場株式)+2,500万円(自宅建物)+4,720万円(自宅敷地)+2,000万円(賃貸アパート)+4,000万円(貸家建付地)+3,000万円(死亡保険金)+560万円(贈与)
=44,280万円
※この問題では、検算のようなことが可能です。③にて、「長男Cさんに係る相続税の課税価格が1億1,070万円」となっているため、これを割って無限小数になっていたら間違いと気付けます。$\frac{11,070万円}{44,280万円}$=0.25。okですね。
② 相続税の総額
遺産に係る基礎控除額と法定相続分を求めます。法定相続人は、(1)妻Bさん、(2)長男Cさん、(3)二男Dさん、(4)三男Eさんの4人です。
- 遺産に係る基礎控除額=3,000万円+600万円×4人=5,400万円
- 法定相続分 Bさん$\frac{1}{2}$ Cさん$\frac{1}{6}$ Dさん$\frac{1}{6}$ Eさん$\frac{1}{6}$
※法定相続分の考え方:まず妻Bさんが$\frac{1}{2}$となる。子は残りの$\frac{1}{2}$を3人で分けるため、$\frac{1}{6}$ずつとなる。
課税遺産総額を求めます。
- 課税遺産総額=44,280万円-5,400万円=38,880万円
法定相続人の法定相続分に応じた取得金額から税額を求めていきます。
- Bさん
38,880万円×$\frac{1}{2}$=19,440万円
19,440万円×40%-1,700万円=6,076万円 …① - Cさん、Dさん、Eさん
38,880万円×$\frac{1}{6}$=6,480万円
6,480万円×30%-700万円=1,244万円
1,244万円×3人=3,732万円 …②
よって、相続税の総額は次の通り。
- 相続税の総額=①+②=6,076万円+3,732万円=9,808万円
※この問題は、「万円単位で答えよ」となっており、所々で小数点が生じていないことで検算のようなことができます。
③長男Cさんの納付すべき相続税額
- 長男Cさんの算出税額=9,808万円×$\frac{11,070万円}{44,280万円}$=2,452万円
設例より、長男Cさんには暦年贈与により560万円を贈与しているとあるため、この分の贈与税を控除できます。18歳以上の者が直系尊属から受けた贈与のため特例贈与財産です。
- 贈与税納付額=(560万円-110万円)×20%-30万円=60万円
以上から、長男Cさんの算出税額は次のようになります。
- 長男Cさんの算出税額=2,452万円-60万円=2,392万円
2023年9月試験を解いていきましょう。
《問64》 仮に、Aさんが現時点(2023年9月10日)において死亡し、孫Eさんに係る相続税の課税価格が4,280万円、相続税の課税価格の合計額が2億1,400万円である場合、①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は万円単位とすること。なお、孫Eさんはこれまでに相続税の未成年者控除の適用を受けたことがないものとする。
① 相続税の総額はいくらか。
② 孫Eさんの納付すべき相続税額はいくらか。Aさんの親族関係図およびAさんが所有している甲土地に関する資料は、以下のとおりである。なお、Aさんは、孫Eさん(14歳)および孫Fさん(13歳)とそれぞれ普通養子縁組(特別養子縁組以外の縁組)をしている。

①相続税の総額
遺産に係る基礎控除額と法定相続分を求めます。法定相続人は、(1)妻Bさん、長男Cさんの代襲相続人の(2)孫Eさんと(3)孫Fさん、(4)長女Dさんの4人です。
- 遺産に係る基礎控除額=3,000万円+600万円×4人=5,400万円
- 法定相続分 Bさん$\frac{1}{2}$ Eさん$\frac{3}{16}$ Fさん$\frac{3}{16}$ Dさん$\frac{1}{8}$
※法定相続分の考え方:まず妻Bさんが$\frac{1}{2}$となる。子は残りの$\frac{1}{2}$を3人で分ける。孫Eさんと孫Fさんは普通養子でもあるため、二重身分となる。子供の分は、Cさん、Dさん、普通養子のEさんとFさんの4人で分けると考える。その上で、EさんとFさんはCさんの代襲相続分も得られる。Dさんは、$\frac{1}{2}$×$\frac{1}{4}$=$\frac{1}{8}$。EさんとFさんは、普通養子としての相続分+Cさんの代襲相続分=($\frac{1}{2}$×$\frac{1}{4}$)+($\frac{1}{2}$×$\frac{1}{4}$×$\frac{1}{2}$)=$\frac{3}{16}$。
課税遺産総額を求めます。
- 課税遺産総額=21,400万円-5,400万円=16,000万円
法定相続人の法定相続分に応じた取得金額から税額を求めていきます。
- Bさん
16,000万円×$\frac{1}{2}$=8,000万円
8,000万円×30%-700万円=1,700万円 …① - Dさん
16,000万円×$\frac{1}{8}$=2,000万円
2,000万円×15%-50万円=250万円 …② - Eさん、Fさん
16,000万円×$\frac{3}{16}$=3,000万円
3,000万円×15%-50万円=400万円
400万円×2人=800万円 …③
よって、相続税の総額は次の通り。
- 相続税の総額=①+②+③=1,700万円+250万円+800万円=2,750万円
②孫Eさんの納付すべき相続税額
- 孫Eさんの算出税額=2,750万円×$\frac{4,280万円}{21,400万円}$=550万円
孫Eさん(14歳)となっているため、未成年者控除を引けます(代襲相続人のため2割加算はありません)。
- 孫Eさんの未成年者控除=(18歳-14歳)×10万円=40万円
- 孫Eさんの納付すべき相続税額=550万円-40万円=510万円
2024年5月試験を解いていきましょう。財産の大半が不動産の場合のケースで、各人の相続税の計算において代償分割と死亡保険金の扱いが重要です。
《問64》 仮に、Aさんが現時点(2024年5月26日)において死亡し、相続税の課税価格の合計額が1億7,000万円であって、長女Dさんが現預金3,000万円を相続により取得し、代償分割により長男Cさんから現金1,600万円を受け取った場合、次の①および②に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は万円単位とすること。
① 相続税の総額はいくらか。
② 長女Dさんの納付すべき相続税額はいくらか。

(2) Aさんが所有する主な財産(相続税評価額)
現預金 :3,000万円
自宅(建物) :1,000万円(共有持分2分の1相当額)
自宅(敷地264㎡) :3,000万円
賃貸アパート(建物) :5,000万円
賃貸アパート(敷地574㎡): □□□円
(3) 賃貸アパートの敷地に関する資料
宅地面積 :574㎡ 自用地価額:7,000万円
借地権割合:60% 借家権割合:30% 賃貸割合:100%
(4) Aさんが加入している生命保険の契約内容
保険の種類 :終身保険
契約年月 :2005年4月
契約者(=保険料負担者)・被保険者:Aさん
死亡保険金受取人 :長女Dさん
死亡保険金額 :1,500万円
① 相続税の総額
遺産に係る基礎控除額と法定相続分を求めます。法定相続人は、(1)長男Cさん、(2)長女Dさんの4人です。
- 遺産に係る基礎控除額=3,000万円+600万円×2人=4,200万円
- 法定相続分 Cさん$\frac{1}{2}$ Dさん$\frac{1}{2}$
※法定相続分の考え方:まず妻Bさんが亡くなっており、全額を子2人で分けるため、CさんとDさんが$\frac{1}{2}$ずつ。
課税遺産総額を求めます。
- 課税遺産総額=17,000万円-4,200万円=12,800万円
※問題文の「長女Dさんが現預金3,000万円を相続により取得し、代償分割により長男Cさんから現金1,600万円を受け取った場合」、この部分が気になりますが、これは各人の相続税を計算する段階で使います。
法定相続人の法定相続分に応じた取得金額から税額を求めていきます。
- Cさん、Dさん
12,800万円×$\frac{1}{2}$=6,400万円
6,400万円×30%-700万円=1,220万円
1,220万円×2人=2,440万円 …①
よって、相続税の総額は次の通り。
- 相続税の総額=2,440万円
②長女Dさんの納付すべき相続税額
この問題で重要なポイントとなるのは、次の2点です。
・代償分割によって取得した財産は、相続税の課税対象となる。
→この問題では、長女Dさんは現金のみ相続し、総額が少なくなるため、長男Cさんから現金1,600万円を受け取っている。
・生命保険で取得した死亡保険金は「みなし相続財産」となり、相続により取得した財産額に加える。
つまり、長女Dさんの算出税額の計算において、算出税額=相続税の総額×$\frac{各人の課税価格}{課税価格の合計額}$の、各人の課税価格には代襲分割によって取得した財産と死亡保険金を加える必要があるということです。
なお、死亡保険金の非課税額は、500万円×2人=1,000万円となるため、加算額は1,500万円-1,000万円=500万円となります。
- 長女Dさんの算出税額
=2,440万円×$\frac{3,000万円+1,600万円+500万円}{17,000万円}$
=732万円
2025年1月試験を解いていきましょう。2024年から制度変更があった相続時精算課税制度において非常に重要な問題です。
《問64》 仮に、Aさんが現時点(2025年1月26日)において死亡し、長男Cさんに係る相続税の課税価格が6,960万円、孫Eさんに係る相続税の課税価格が1,740万円、相続税の課税価格の合計額が1億7,400万円である場合、次の①~③に答えなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は万円単位とすること。なお、孫Eさんは、これまでに相続税の未成年者控除の適用を受けたことがないものとする。
① 相続税の総額はいくらか。
② 長男Cさんの納付すべき相続税額はいくらか。
③ 孫Eさんの納付すべき相続税額はいくらか。
Aさんの親族関係図、Aさんが所有している土地に関する資料およびAさんから長男Cさんに対する贈与に関する資料は、以下のとおりである。なお、長女Dさんは、2年前に病気により他界している。また、Aさんは、孫Eさん(16歳)および孫Fさん(14歳)とそれぞれ普通養子縁組(特別養子縁組以外の縁組)をしている。

〈Aさんから長男Cさんに対する贈与に関する資料〉
長男Cさんは、2021年1月にAさんから事業を承継する際、Aさんから機械設備などの事業用資産3,000万円(相続税評価額)の贈与を受けた。その際、初めて相続時精算課税の適用を受け、贈与税を納付している。
①相続税の総額
遺産に係る基礎控除額と法定相続分を求めます。法定相続人は、(1)妻Bさん、(2)長男Cさん、長女Dさんの代襲相続人の(3)孫Fさん、普通養子の(4)孫Eさんの4人です。
- 遺産に係る基礎控除額=3,000万円+600万円×4人=5,400万円
- 法定相続分 Bさん$\frac{1}{2}$ Cさん$\frac{1}{8}$ Eさん$\frac{1}{8}$ Fさん$\frac{1}{4}$
※法定相続分の考え方:まず妻Bさんが$\frac{1}{2}$となる。子は残りの$\frac{1}{2}$を3人で分ける。孫Fさんは普通養子でもあるため、二重身分となる。子供の分は、Cさん、Dさん、普通養子のEさんとFさんの4人で分けると考える。その上で、FさんはDさんの代襲相続分も得られる。CさんとEさんは、$\frac{1}{2}$×$\frac{1}{4}$=$\frac{1}{8}$。Fさんは、普通養子としての相続分+Dさんの代襲相続分=($\frac{1}{2}$×$\frac{1}{4}$)+($\frac{1}{2}$×$\frac{1}{4}$)=$\frac{1}{4}$。
課税遺産総額を求めます。
- 課税遺産総額=17,400万円-5,400万円=12,000万円
法定相続人の法定相続分に応じた取得金額から税額を求めていきます。
- Bさん
12,000万円×$\frac{1}{2}$=6,000万円
6,000万円×30%-700万円=1,100万円 …① - CさんとEさん
12,000万円×$\frac{1}{8}$=1,500万円
1,500万円×15%-50万円=175万円
175万円×2人=350万円 …② - Fさん
12,000万円×$\frac{1}{4}$=3,000万円
3,000万円×15%-50万円=400万円 …③
よって、相続税の総額は次の通り。
- 相続税の総額=①+②+③=1,100万円+350万円+400万円=1,850万円
②長男Cさんの納付すべき相続税額
- 長男Cさんの算出税額=1,850万円×$\frac{6,960万円}{17,400万円}$=740万円
設例の〈Aさんから長男Cさんに対する贈与に関する資料〉によると、長男Cさんは2021年1月に相続時精算課税制度で3,000万円の贈与を受け、贈与税を納付したと出ています。
相続時精算課税制度では、2,500万円の超過分に対して20%の贈与税が発生します。また、2024年以降は基礎控除110万円が適用されるようになりました。
相続時精算課税制度を適用したのは2021年1月に3,000万円のため、2,500万円の超過分500万円に対して20%の贈与税=500万円×20%=100万円を支払ったということです。
この贈与税100万円は相続税から控除できるため、
- 長男Cさんの納付すべき相続税額=740万円-100万円=640万円
※相続時精算課税と相続税における非常に重要な問題です。なお、もし仮に相続時精算課税を適用した贈与が2024年以降だった場合には基礎控除110万円を引きます。仮に、2025年1月に相続時精算課税制度で3,000万円の贈与を受けていた場合には、3,000万円-110万円=2,890万円より、贈与税は2,500万円の超過分390万円の20%=78万円となります。
③孫Eさんの納付すべき相続税額
- 孫Eさんの算出税額=1,850万円×$\frac{1,740万円}{17,400万円}$=185万円
孫Eさんは、代襲相続人ではない孫のため2割加算が追加されます。さらに、孫Eさん(16歳)となっているため、未成年者控除を引けます(2割加算→未成年者控除の順に算出する点に注意してください)。
- 孫Eさんの未成年者控除=(18歳-16歳)×10万円=20万円
- 孫Eさんの納付すべき相続税額=185万円×1.2-20万円=202万円
最後に、相続税における最難関問題として2018年9月試験を解いていきましょう。
※制度終了となっている部分もあるため全てを理解する必要はありませんが、賃貸アパート(貸家)の相続税評価額、死亡保険金控除の按分、教育資金贈与の取り扱いについては押さえておいてください。
《問63》仮に、Aさんが現時点(平成30年9月9日)において死亡し、《設例》の〈Aさんが保有する財産の分割内容〉に基づき、相続人等が相続または遺贈により財産を取得する場合、各相続人等に係る相続税の課税価格および相続税の課税価格の合計額を求めた下記の表の空欄①~⑧に入る適切な数値を、解答用紙に記入しなさい。
なお、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」を妻Bさんが取得する自宅の敷地と長女Dさんが取得する賃貸アパートの敷地に適用し、自宅の敷地を優先して適用することとする。また、表中の「***」は、問題の性質上、伏せてある。

(注1)「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」適用後の金額とする。
(注2)「死亡保険金の非課税金額の規定」による非課税金額控除後の金額とする。
→管理人注:法定相続人の数は6人
(注3)相続時精算課税等の適用を受けた財産を含む。
〈Aさんが保有する財産の分割内容〉
(1)妻Bさん
現預金:5,000万円(相続税評価額)
自宅
建物:固定資産税評価額800万円
敷地:宅地面積264㎡、自用地価額6,200万円(2)長女Dさん
現預金:1,000万円(相続税評価額)
有価証券:500万円(相続税評価額)
賃貸アパート
建物:固定資産税評価額2,000万円、借家権割合30%、賃貸割合100%
敷地:宅地面積400㎡、自用地価額8,000万円
借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%(3)二女Eさん
現預金:2,500万円(相続税評価額)
有価証券:700万円(相続税評価額)(4)孫Fさん
現預金:300万円(相続税評価額)(5) 弟Jさん
現預金:1,000万円(相続税評価額)
有価証券:800万円(相続税評価額)〈Aさんが加入している生命保険の契約内容〉
(1) 終身保険
契約者(=保険料負担者)・被保険者:Aさん
死亡保険金受取人:妻Bさん
死亡保険金額:6,000万円
(2) 終身保険
契約者(=保険料負担者)・被保険者:Aさん
死亡保険金受取人:長女Dさん
死亡保険金額:4,000万円
〈Aさんが行った贈与の内容〉
(1) 長女Dさんは、平成28年4月にAさんから有価証券の贈与を受け、初めて相続時精算課税の適用を受けた。贈与を受けた有価証券の贈与時の価額(相続税評価額)は500万円、現時点(平成30年9月9日)の価額(相続税評価額)は600万円である。
(2) 孫Fさんは、平成28年6月にAさんから現金800万円の贈与を受け、「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例」の適用を受けた。現時点(平成30年9月9日)において、教育資金管理契約に係る非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額が600万円ある。
(3) 二女Eさんは、平成28年10月にAさんから現金600万円の贈与を受け、「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例」の適用を受けた。現時点(平成30年9月9日)において、結婚・子育て資金管理契約に係る非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額が400万円ある。
上の横列から順番に埋めていきたいと思います。
①長女Dさんの不動産(家屋)
長女Dさんが所有する「不動産(家屋)」は、次の通りです。
・賃貸アパート
建物:固定資産税評価額2,000万円、借家権割合30%、賃貸割合100%
賃貸アパートは貸家として、固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)で評価します。
- ①長女Dさんの不動産(家屋)=2,000万円×(1-30%×100%)=1,400万円
②③妻Bさんと長女Dさんの不動産(宅地)
不動産(宅地)は次の2つです。
(1)妻Bさん
自宅
敷地:宅地面積264㎡、自用地価額6,200万円(2)長女Dさん
賃貸アパート
敷地:宅地面積400㎡、自用地価額8,000万円
借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%
「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」は、特定居住用宅地等から適用するため、妻Bさんの自宅は宅地面積264㎡全てに80%適用されます。
- ②妻Bさんの不動産(宅地)
=6,200万円-6,200万円×$\frac{264㎡}{264㎡}$×80%
=1,240万円
長女Dさんの賃貸アパートの敷地は、貸付事業用宅地等として貸家建付地として評価されます。
「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用面積は、以下の式を満たした値となります。
- 特定居住用宅地等の適用面積×$\frac{200}{330}$+特定事業用宅地等の適用面積×$\frac{200}{400}$+貸付事業用宅地等の適用面積=200㎡
- 264㎡×$\frac{200}{330}$+貸付事業用宅地等の適用面積=200㎡
- 貸付事業用宅地等の適用面積=200㎡-160㎡=40㎡<400㎡ ∴40㎡
貸家建付地として、40㎡を50%減額できます。
- 貸家建付地の評価額
=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
=8,000万円×(1-60%×30%×100%)
=6,560万円 - 特例適用後の価額=6,560万円-6,560万円×$\frac{40㎡}{400㎡}$×50%=6,232万円
- ③長女Dさんの不動産(宅地)=6,232万円
④妻Bさんの生命保険金
死亡保険金の非課税金額は、「500万円×法定相続人の数」となり、今回は6人のため3,000万円です。
〈Aさんが加入している生命保険の契約内容〉では次のようになっています。
〈Aさんが加入している生命保険の契約内容〉
(1) 終身保険
契約者(=保険料負担者)・被保険者:Aさん
死亡保険金受取人:妻Bさん
死亡保険金額:6,000万円
(2) 終身保険
契約者(=保険料負担者)・被保険者:Aさん
死亡保険金受取人:長女Dさん
死亡保険金額:4,000万円
つまり、妻Bさんは6,000万円、長女Dさんは4,000万円受け取るということです。
死亡保険金を複数人が受け取る場合には、その受取金額に応じて、死亡保険金の非課税金額を按分する必要があります。
今回は、死亡保険金がトータル1億円で、妻Bさんは60%、長女Dさんは40%受け取るため、死亡保険金の非課税金額については妻Bさんは3,000万円×60%=1,800万円、長女Dさんは3,000万円×40%=1,200万円となります。
よって、死亡保険金については次の通りです。長女Dさんの分についても以降の問題で使うため求めておく必要があります。
- ④妻Bさんの生命保険金=6,000万円-1,800万円=4,200万円
- 長女Dさんの生命保険金=4,000万円-1,200万円=2,800万円
⑤長女Dさんの生前贈与財産
設例の〈Aさんが行った贈与の内容〉では、次のようになっています。
(1) 長女Dさんは、平成28年4月にAさんから有価証券の贈与を受け、初めて相続時精算課税の適用を受けた。贈与を受けた有価証券の贈与時の価額(相続税評価額)は500万円、現時点(平成30年9月9日)の価額(相続税評価額)は600万円である。
相続時精算課税制度の適用を受けた財産は、贈与時の価額(相続税評価額)が、相続税の課税価格に加算されます(基礎控除ができたのは2024年以降のため加味しません)。よって、500万円です。
- ⑤長女Dさんの生前贈与財産=500万円
⑥二女Eさんの合計
二女Eさんの合計を求める上では、生前贈与財産が空欄となっています。
設例の〈Aさんが行った贈与の内容〉では、次のようになっています。
(3) 二女Eさんは、平成28年10月にAさんから現金600万円の贈与を受け、「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例」の適用を受けた。現時点(平成30年9月9日)において、結婚・子育て資金管理契約に係る非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額が400万円ある。
「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例」では、相続時における残額は、相続税の課税価格に加算されます。
- 二女Eさんの生前贈与財産=400万円
- ⑥二女Eさんの合計=2,500万円+700万円+400万円=3,600万円
※「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例」は2025年3月31日で終了となったため、今後は出題されることはありません。
⑦孫Fさんの合計
孫Fさんの合計を求める上では、生前贈与財産が空欄となっています。
設例の〈Aさんが行った贈与の内容〉では、次のようになっています。
(2) 孫Fさんは、平成28年6月にAさんから現金800万円の贈与を受け、「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例」の適用を受けた。現時点(平成30年9月9日)において、教育資金管理契約に係る非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額が600万円ある。
「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例」では、受贈者が23歳未満、学校等に在学しているか教育訓練を受講している場合には、相続税の課税対象になりません。
- 孫Fさんの生前贈与財産=0円
- ⑦孫Fさんの合計=300万円+0円=300万円
※「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例」は2026年3月31日で終了となるため、制度延長されない限りは、2026年以降は出題されることはないと思われます。
※今回は出題されなかった「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の特例」については、相続開始前7年以内の贈与であっても相続税の課税価格に加算されません。なお、2026年12月31日までとなっています。
⑧合計額
⑧合計額は、以上の合計額より、妻Bさん11,240万円、長女Dさん12,432万円、二女Eさん3,600万円、孫Fさん300万円、弟Jさん1,800万円となり、合計29,372万円となります。
- ⑧合計額=29,372万円
2018年9月試験の穴埋めは、本当に骨が折れる問題です。
続いて、相続税の総額も求めていきましょう。こちらは計算問題としても重要です。
《問64》仮に、Aさんが現時点(平成30年9月9日)において死亡し、前問《問63》の計算結果にかかわらず、弟Jさんに係る相続税の課税価格が1,800万円、相続税の課税価格の合計額が3億円である場合、①相続税の総額および②弟Jさんの納付すべき相続税額をそれぞれ求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。
なお、弟Jさんの納付すべき相続税額の計算にあたって、相続財産の取得者間における按分割合の調整は行わないものとする。

①相続税の総額
遺産に係る基礎控除額と法定相続分を求めます。法定相続人は、(1)妻Bさん、長男Cさんの代襲相続人の(2)孫Fさんと(3)孫Gさん、(4)長女Dさん、(5)二女Eさん、普通養子の(6)孫Hさんか孫Iさん(※法定相続分にカウントできる普通養子は、実子がいる場合は1人まで)の6人です。
- 遺産に係る基礎控除額=3,000万円+600万円×6人=6,600万円
- 法定相続分 Bさん$\frac{1}{2}$ Fさん$\frac{1}{16}$ Gさん$\frac{1}{16}$ Dさん$\frac{1}{8}$ Eさん$\frac{1}{8}$ Hさん$\frac{1}{8}$
※法定相続分の考え方:まず妻Bさんが$\frac{1}{2}$となる。子は残りの$\frac{1}{2}$を分ける。子の分は、Cさん、Dさん、Eさん、普通養子のHさんの4人で分けると考える。Cさん、Dさん、Hさんは$\frac{1}{2}$×$\frac{1}{4}$=$\frac{1}{8}$。Cさんの代襲相続人のFさんとGさんはCさんの分の$\frac{1}{8}$を2人で分けるため$\frac{1}{16}$。
課税遺産総額を求めます。
- 課税遺産総額=30,000万円-6,600万円=23,400万円
法定相続人の法定相続分に応じた取得金額から税額を求めていきます。
- Bさん
23,400万円×$\frac{1}{2}$=11,700万円
11,700万円×40%-1,700万円=2,980万円 …① - Cさん、Dさん、Hさん
23,400万円×$\frac{1}{8}$=2,925万円
2,925万円×15%-50万円=388.75万円
388.75万円×3人=1,166.25万円 …② - Fさん、Gさん
23,400万円×$\frac{1}{16}$=1,462.5万円
1,462.5万円×15%-50万円=169.375万円
169.375万円×2人=338.75万円 …③
よって、相続税の総額は次の通り。
- 相続税の総額=①+②+③=2,980万円+1,166.25万円+338.75万円=4,485万円→44,850,000円
※この問題は、途中の計算で小数点が出るため「計算ミスでは?」と思うのですが、最終的にはピッタリと万円単位に収まってしまいます。
②弟Jさんの納付すべき相続税額
- 弟Jさんの算出税額=4,485万円×$\frac{1,800万円}{30,000万円}$=269.1万円
弟Jさんは「配偶者や1親等の血族」ではないため、2割加算の対象となります(なお、弟を普通養子にすると2割加算の対象から外れます。2021年9月問47)。
- 弟Jさんの納付すべき相続税額=269.1万円×1.2=322.92万円→3,229,200円
ここからは2020年~2017年の過去問から、重要な各論について記述していきます。部分的な説明だけしますが、気になる場合は問題を全て解いてみてください。
2019年9月試験では、実子の数が複雑となっていました。
Aさんの親族関係図およびAさんが所有している土地に関する資料等は、以下のとおりである。なお、Aさんは、長女Eさんの配偶者であるDさんおよび後妻である妻Bさんの子Fさんとそれぞれ普通養子縁組(特別養子縁組以外の縁組)をしている。

法定相続人は、(1)妻Bさん、(2)長男Cさん、(3)長女Eさん、(4)子Fさん、普通養子の(5)配偶者Dさんの5人となります。
実子とみなされる者は、特別養子縁組による養子、配偶者の実子で被相続人養子となった者、実子または養子の代襲相続人です。
今回のケースでは、子Fさんは、配偶者の実子で被相続人養子となった者のため、実子とみなされます。よって、子Fさんは実子となるため、普通養子として配偶者Dさんが法定相続人にカウントされます。
- 遺産に係る基礎控除額=3,000万円+600万円×5人=6,000万円
- 法定相続分 Bさん$\frac{1}{2}$ Cさん$\frac{1}{8}$ Eさん$\frac{1}{8}$、Fさん$\frac{1}{8}$ Dさん$\frac{1}{8}$
※法定相続分の考え方:まず妻Bさんが$\frac{1}{2}$となる。子は残りの$\frac{1}{2}$を分けるため、$\frac{1}{2}$×$\frac{1}{4}$=$\frac{1}{8}$。
2019年5月試験では、債務控除についての扱いが出ました。
《設例》の〈Aさんに関する資料〉に基づき、Aさんの相続における相続税の総額を求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は万円単位とすること。なお、長男Cさんは葬儀費用200万円を支払っており、その全額が債務控除の対象となるものとする。
債務控除は、課税価格の合計額から差し引けます。よって、この問題の場合、課税価格の合計額は次のようになります。
- 現預金7,000万円+X社株式28,000万円+自宅建物500万円+自宅敷地1,200万円+X社建物3,000万円+X社敷地2,700万円+ 保険金4,000 万円-葬式費用200万円=46,200万円
債務控除があったら、相続財産から差し引ける点を知識として入れておいてください。
自社株の評価
自社株の評価では、取引相場のない株式の相続税評価額について、類似業種比準価額方式、純資産価額方式、併用法式の計算について出題されます。
純資産価額法式と併用法式は計算式さえ知っていれば一発で解けるため、類似業種比準価額の解法についてとにかく理解するようにしてください。
学科でも重要な知識となりますが、応用から先にやった方がとっつきやすくなるかと思います。
相続税に比べると、類似業種比準価額の方が圧倒的に簡単です。こちらが出題されたらラッキーだと思いましょう。
類似業種比準価額方式
類似業種比準価額は、次の式で求められます。
- 類似業種比準価額=類似業種の株価(A)×$\frac{年配当金額の比準(B)+年利益金額の比準(C)+簿価純資産価額の比準(D)}{3}$×斟酌率(E)×$\frac{1株当たり資本金等の額}{50}$
A:類似業種の株価。課税時期の属する以前3ヶ月間の各月の平均株価、前年平均株価、以前2年間の平均株価の5時期のうち最も低い金額
※覚え方。図解すると覚えやすいですが。2025年7月11日なら、2025年7月の平均株価、2025年6月の平均株価、2025年5月の平均株価、2024年の平均株価、2025年7月から2年間の平均株価のいずれか低い金額となります。なお、学科でも重要な、上場株式の評価と混同しないように注意してください。
※応用のダミーとしては、「課税時期の前々年の平均株価(上記例だと2023年平均株価))」が出やすいですが駄目です。課税時期を含む直近2年間です。2年前の平均株価は、直近2年の平均でのみ参照されます。
B:年配当金額の比準=$\frac{評価会社の1株当たり年配当金額}{類似業種の1株当たり年配当金額}$
※評価会社の1株当たり年配当金額は、直前期末以前2年間の平均額となる。また、特別配当や記念配当は除く。
C:年利益金額の比準=$\frac{評価会社の1株当たり年利益金額}{類似業種の1株当たり年利益金額}$
※所得金額=年利益金額。評価会社の1株当たり年利益金額は、直前期末1年間と2年間の平均額のうち低い方となる。保険差益や固定資産の売却など、非経常的な利益は除く。
D:簿価純資産価額の比準=$\frac{評価会社の1株当たり簿価純資産価額}{類似業種の1株当たり簿価純資産価額}$
※評価会社の1株当たり簿価純資産価額は、直前期末の資本金等の額と利益積立金額を合計した額。
→ここは出題されたことがないですが、今後出題される可能性があります。直前期末のみです。
評価会社の比準は、1株当たり資本金等の額を50円とした場合の1株当たりのものとなります。資本金等の額を50円とした場合の発行済株式総数で除します(詳しくは問題を解く中で覚えていってください。配当還元方式の場合も同様となります)。
※余談ですが、管理人は、学科の配当還元方式の解き方が全く入ってこなかったのですが、応用で学んだことですんなり理解できるようになりました。
- 1株当たり資本金等の額を50円とした場合の発行済株式総数=資本金等の額÷50円
・E:斟酌率。大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5
※設例に会社判定が記述されていない場合には、大会社の判定をします(「従業員70人以上なら大会社」だけは覚えておいてください)。
*大会社の判定
-直前期末以前1年間における従業員数が70人以上である。
-従業員数35人超で純資産価額が15億円以上(卸売業は20億円以上)。
-従業員数35人超で取引金額(売上高)が15億円以上(卸売業は30億円以上、小売・サービス業は20億円以上)
・1株当たりの資本金等の額=$\frac{資本金等の額}{発行済株式総数}$
※類似業種比準価額の最後の項$\frac{1株当たり資本金等の額}{50}$を計算する上で必要になります。
※ほぼ全ての問題で500円になりますが、かつて50円になった罠がありました(2022年1月試験)。500円だと決めつけず、必ず計算するようにしてください。
これをいきなり全て覚えるのは不可能なので、問題を繰り返し解いて、身体に覚えさせていってください。
類似業種比準価額方式についても、相続税の場合と同様に、まず解法の流れを自分の手を動かして理解していくことが重要です。とにかく何度も解いてください。
まずは、基本問題として、2021年9月試験を解いていきましょう。なお、あくまで解法を理解するのに適した基本問題であり、近年はここまで素直な問題は出題されません。
《問63》《設例》の〈X社の概要〉に基づき、X社株式の1株当たりの類似業種比準価額を求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。また、端数処理は、各要素別比準割合および比準割合は小数点第2位未満を切り捨て、1株当たりの資本金等の額50円当たりの類似業種比準価額は10銭未満を切り捨て、X社株式の1株当たりの類似業種比準価額は円未満を切り捨てること。
なお、X社株式の類似業種比準価額の算定にあたり、複数の方法がある場合は、最も低い価額となる方法を選択するものとする。〈X社の概要〉
(1) 業種 電気機械器具製造業(2) 資本金等の額 9,000万円(発行済株式総数180,000株、すべて普通株式で1株につき1個の議決権を有している)
(5) X社株式の評価(相続税評価額)に関する資料
・X社の財産評価基本通達上の規模区分は「中会社の中」である。
・X社は、特定の評価会社には該当しない。
・比準要素の状況
比準要素 X社 類似業種 1株(50円)当たりの年配当金額 2.0円 4.6円 1株(50円)当たりの年利益金額 50円 30円 1株(50円)当たりの簿価純資産価額 300円 258円 ※すべて1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額である。
・類似業種の1株(50円)当たりの株価の状況
課税時期の属する月の平均株価 :360円
課税時期の属する月の前月の平均株価 :362円
課税時期の属する月の前々月の平均株価 :352円
課税時期の前年の平均株価 :350円
課税時期の属する月以前2年間の平均株価:348円
初見の場合は、この問題で解法の流れを覚えていってください(特に、どこを四捨五入や切り捨てをするかは独特のためマスターしておいてください)。
まずは、1株当たりの資本金等の額を求めます。
- 1株当たりの資本金等の額=9,000万円÷18万株=500円
この問題の場合、あとはもう全て類似業種比準価額を求めるために使う数値は出ているため、計算できます。株価は、「課税時期の属する月以前2年間の平均株価」が最も低いため348円です。斟酌率は「中会社の中」のため0.6です。
- 類似業種比準価額
=348円×$\frac{\frac{2.0円}{4.6円}+\frac{50円}{30円}+\frac{300円}{258円}}{3}$×0.6×$\frac{500円}{50円}$
=348円×$\frac{0.43+1.66+1.16}{3}$×0.6×10
=348円×1.08×0.6×10
=2,255円
計算途中では、3比準の分子分母および比準割合は小数点第二位未満は切り捨てとなります。
続いて、2要素が隠れている2025年5月問題を解いていきましょう。こちらが標準的な問題となります。
《問63》《設例》の〈X社の概要〉に基づき、X社株式の1株当たりの類似業種比準価額を求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。また、端数処理については、1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の株数で除した年配当金額は10銭未満を切り捨て、1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の株数で除した年利益金額は円未満を切り捨て、各要素別比準割合および比準割合は小数点第2位未満を切り捨て、1株当たりの資本金等の額50円当たりの類似業種比準価額は10銭未満を切り捨て、X社株式の1株当たりの類似業種比準価額は円未満を切り捨てること。
なお、X社株式の類似業種比準価額の算定にあたり、複数の方法がある場合は、最も低い価額となる方法を選択するものとする。〈X社の概要〉
(1) 業種 電気工事業(従業員数12名)
(2) 資本金等の額 1,000万円(発行済株式総数20,000株、すべて普通株式で1株につき1個の議決権を有している)(5) X社株式の評価(相続税評価額)に関する資料
・X社の財産評価基本通達上の規模区分は「中会社の小」である。
・X社は、特定の評価会社には該当しない。
・比準要素の状況
比準要素 X社 類似業種 1株(50円)当たりの年配当金額 □□□円 9.0円 1株(50円)当たりの年利益金額 □□□円 40円 1株(50円)当たりの簿価純資産価額 620円 590円 ※すべて1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額である。
※「□□□」は、問題の性質上、伏せてある。・類似業種の1株(50円)当たりの株価の状況
課税時期の属する月の平均株価 :450円
課税時期の属する月の前月の平均株価 :460円
課税時期の属する月の前々月の平均株価 :470円
課税時期の前年の平均株価 :340円
課税時期の属する月以前2年間の平均株価:370円(6) X社の過去3年間の決算(売上高・所得金額・配当金額)の状況
事業年度 売上高 所得金額 配当金額 直前期 18,000万円 1,210万円(注) 180万円 直前々期 18,500万円 1,080万円 160万円 直前々期の前期 17,500万円 1,000万円 140万円 (注)固定資産の売却による非経常的な利益金額200万円が含まれている。
まず、1株当たりの資本金等の額を求めます。
- 1株当たりの資本金等の額=1,000万円÷2万株=500円
この問題では、X社の「1株(50円)当たりの年配当金額」「1株(50円)当たりの年利益金額」が隠れているため、こちらを求める必要があります。
この数値を求めるには、1株(50円)当たりの発行済株式数を求める必要があります。
- 1株当たり資本金等の額を50円とした場合の発行済株式総数
=資本金等の額÷50円=1,000万円÷50円=20万株
X社の「1株(50円)当たりの年配当金額」は、直前期末以前2年間の平均額を、1株当たり資本金等の額を50円とした場合の発行済株式総数で除して求めます。
- X社の「1株(50円)当たりの年配当金額」
=$\frac{(180万円+160万円)÷2}{20万株}$
=8.5円
X社の「1株(50円)当たりの年利益金額」は、企業の所得金額について、直前期末1年間と2年間の平均額のうち低い方の金額を、1株当たり資本金等の額を50円とした場合の発行済株式総数で除して求めます。
直前期末1年間の所得金額は1,010万円(非経常的な利益金額200万円を1,210万円から引く)、2年間の平均額は(1,010万円+1,080万円)÷2=1,045万円より、1,010万円を用います。
- X社の「1株(50円)当たりの年利益金額」
=$\frac{1,010万円}{20万株}$
=50.5円
→50円(※10銭未満切り捨て)
あとは、類似業種比準価額の計算式に当てはめて計算していくだけです。株価は、「課税時期の前年の平均株価」が最も低いため340円。斟酌率は「中会社の小」のため0.6です。
- 類似業種比準価額
=340円×$\frac{\frac{8.5円}{9.0円}+\frac{50円}{40円}+\frac{620円}{590円}}{3}$×0.6×$\frac{500円}{50円}$
=340円×$\frac{0.94+1.25+1.05}{3}$×0.6×10
=340円×1.08×0.6×10
=2,203円
基本的には、この解法パターンさえ押さえておけば、類似業種比準価額の問題はほぼ解けます。
もう1パターン、業種区分のパターンについて押さえておいてください。2023年1月試験となります。
《問64》 《設例》の〈X社の概要〉に基づき、X社株式の1株当たりの類似業種比準価額を求めなさい。〔計算過程〕を示し、〈答〉は円単位とすること。また、端数処理は、各要素別比準割合および比準割合は小数点第2位未満を切り捨て、1株当たりの資本金等の額50円当たりの類似業種比準価額は10銭未満を切り捨て、X社株式の1株当たりの類似業種比準価額は円未満を切り捨てること。
なお、X社株式の類似業種比準価額の算定にあたり、複数の方法がある場合は、最も低い価額となる方法を選択するものとする。〈X社の概要〉
(1) 業種 建築工事業
(2) 資本金等の額 8,000万円(発行済株式総数160,000株、すべて普通株式で1株につき1個の議決権を有している)
(5) 従業員数 70人
※直前期末以前1年間に継続してX社に勤務する従業員の数である(就業規則等で定められた1週間当たりの労働時間が30時間未満の従業員を除く)。
(6) X社株式の評価(相続税評価額)に関する資料
・X社の比準要素
比準要素 X社 1株(50円)当たりの年配当金額 6.1円 1株(50円)当たりの年利益金額 35円 1株(50円)当たりの簿価純資産価額 350円 ・類似業種比準価額計算上の業種目/比準要素/業種目別株価
業種目 年配当金額 年利益金額 簿価純資産価額 株価 建設業(大分類) 7.7円 47円 387円 285円 総合工事業(中分類) 7.5円 43円 337円 225円 建築工事業(小分類) 8.5円 56円 363円 272円
この問題では、X社の業種は「建築工事業」となっており、原則として、小分類に該当します。ただ、選択により、中分類の「総合工事業」を対象とすることも可能です。
よって、この問題では、「建築工事業(小分類)」と「総合工事業(中分類)」の2と通りで類似業種比準価額を求め、低い方を適用することになります。
まずは、1株当たりの資本金等の額を求めます。
- 1株当たりの資本金等の額=800万円÷16万株=500円
また、X社は従業員が70人以上いるため「大会社」となります。斟酌率は0.7です。
(1)建築工事業(小分類)による類似業種比準価額
- 類似業種比準価額
=272円×$\frac{\frac{6.1円}{8.5円}+\frac{35円}{56円}+\frac{350円}{363円}}{3}$×0.7×$\frac{500円}{50円}$
=272円×$\frac{0.71+0.62+0.96}{3}$×0.7×10
=272円×0.76×0.7×10
=1,447.04円
→1,447円(※円未満切り捨て)
(2)総合工事業(中分類)による類似業種比準価額
- 類似業種比準価額
=225円×$\frac{\frac{6.1円}{7.5円}+\frac{35円}{43円}+\frac{350円}{337円}}{3}$×0.7×$\frac{500円}{50円}$
=225円×$\frac{0.81+0.81+1.03}{3}$×0.7×10
=225円×0.88×0.7×10
=1,386円
(1)1,447円>(2)1,386円より、1,386円
2025年5月試験と2023年1月試験の解法パターンさえ理解すれば、問題ないかと思います。
それでは、その他の各論について記述していきます。より詳しくは、該当する試験を全て解いてみてください。
X社の「1株(50円)当たりの年配当金額」について、記念配当があるときは引いて求めます。2024年1月試験です。
〈X社の概要〉
(2) 資本金等の額 6,500万円(発行済株式総数130,000株、すべて普通株式で1株につき1個の議決権を有している)(6) X社の過去3年間の決算(売上高・所得金額・配当金額)の状況
事業年度 売上高 所得金額 配当金額 直前期 84,000万円 3,720万円 501万円(注) 直前々期 79,000万円 3,370万円 431万円 直前々期の前期 81,000万円 2,520万円 450万円 (注)記念配当100万円が含まれている。
- 1株当たり資本金等の額を50円とした場合の発行済株式総数
=6,500万円÷50円=130万株 - X社の「1株(50円)当たりの年配当金額」
=$\frac{(401万円+431万円)÷2}{130万株}$
=3.2円
類似業種比準価額の株価についてはダミーが入っているときがあります。2021年1月試験です。
・類似業種の1株(50円)当たりの株価の状況
課税時期の属する月の平均株価 :250円
課税時期の属する月の前月の平均株価 :252円
課税時期の属する月の前々月の平均株価 :250円
課税時期の前年の平均株価 :260円
課税時期の前々年の平均株価 :242円
課税時期の属する月以前2年間の平均株価:248円
類似業種の株価は、「課税時期の属する以前3ヶ月間の各月の平均株価」「前年平均株価」「以前2年間の平均株価」の5時期のうち最も低い金額となります。
この回では、「課税時期の前々年の平均株価」が242円で最も低くなっていますが、これはダミーです。よって、最も低いのは、「課税時期の属する月以前2年間の平均株価」の248円です。
類似業種比準価額の計算では、まず最初に1株当たりの資本金等の額を計算します。慣れてくると、ここは機械的に計算するため、脳死で=500円とやってしまいがちですが……。2022年1月試験です。
〈X社の概要〉
(1) 業種 パン・菓子製造業(2) 資本金等の額 3,000万円(発行済株式総数600,000株、すべて普通株式で1株につき1個の議決権を有している)
・1株当たりの資本金等の額=$\frac{3,000万円}{60万株}$=50円
ちゃんと計算するようにしましょう。
逆に言えば、類似業種比準価額は、このような落とし穴的な問題しか出せないとも言えます。今後、「1株(50円)当たりの簿価純資産価額」は、直前期末のみは、出される可能性があるんじゃないかと。
純資産価額方式
純資産価額方式では、次の手順で純資産価額を求めます。
①相続税評価額による純資産価額=相続税評価額による資産の合計額-負債の合計額
②帳簿価額による純資産価額=帳簿価額による資産の合計額-負債の合計額
③評価差額に相当する金額=①-②
④評価差額に対する法人税等相当額=③×37%
⑤純資産価額=①-④
⑥1株当たりの純資産価額=⑤÷発行済株式数
純資産価額方式について、特に何の捻りもないため、上記の手順と法人税等37%を覚えてください。とにかく何度も自分の手で計算して、身体に覚え込ませてください。
なお、ほぼ全ての問題で、相続税評価額による負債の合計額=帳簿価額による負債の合計額となっているため、③=相続税評価額による資産の合計額-帳簿価額による資産の合計額となりますが、検算に使うとよいでしょう。
それでは、2025年5月試験を解いていきましょう。併用法式は飛ばしてください。
《問64》《設例》の〈X社の概要〉に基づき、X社株式の1株当たりの①純資産価額および②類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式による価額を、それぞれ求めなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は円未満を切り捨てて円単位とすること。
なお、X社株式の相続税評価額の算定にあたり、複数の方法がある場合は、最も低い価額となる方法を選択するものとする。〈X社の概要〉
(2) 資本金等の額 1,000万円(発行済株式総数20,000株、すべて普通株式で1株につき1個の議決権を有している)(7) X社の資産・負債の状況
直前期のX社の資産・負債の相続税評価額と帳簿価額は、次のとおりである。
科目 相続税評価額 帳簿価額 科目 相続税評価額 帳簿価額 流動資産 14,500万円 14,500万円 流動負債 5,400万円 5,400万円 固定資産 8,200万円 6,200万円 固定負債 2,900万円 2,900万円 合計 22,700万円 20,700万円 合計 8,300万円 8,300万円
純資産価額は次の通りです。
- 相続税評価額による純資産価額=22,700万円-8,300万円=14,400万円
- 帳簿価額による純資産価額=20,700万円-8,300万円=12,400万円
- 評価差額に相当する金額=14,400万円-12,400万円=2,000万円
- 評価差額に対する法人税等相当額=2,000万円×37%=740万円
- 純資産価額=14,400万円-740万円=13,660万円
- 1株当たりの純資産価額=13,660万円÷2万株=6,830円
純資産価額方式については、全ての問題で解き方が共通で、何のひねりもありません。黙々と何度も何度も解いてください(私が、FP1級試験の計算問題を儀式と言っている意味が分かってくることかと思います)。
併用法式
中会社と小会社は、類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用法式を用いることができます。
併用法式による評価額は、次の通りです。
- 併用法式による評価額=類似業種比準価額×Lの割合+純資産価額×(1-Lの割合)
※Lの割合:中会社の大0.90、中会社の中0.75、中会社の小0.60
Lの割合を覚えてください。中会社の中0.75を基準に±0.15です。
それでは、Lの割合の3パターンの問題を解いていきましょう。まずここまで基本問題としてやってきた2025年5月試験です。
《問64》《設例》の〈X社の概要〉に基づき、X社株式の1株当たりの①純資産価額および②類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式による価額を、それぞれ求めなさい(計算過程の記載は不要)。〈答〉は円未満を切り捨てて円単位とすること。
なお、X社株式の相続税評価額の算定にあたり、複数の方法がある場合は、最も低い価額となる方法を選択するものとする。(5) X社株式の評価(相続税評価額)に関する資料
・X社の財産評価基本通達上の規模区分は「中会社の小」である。※ここまでの問題より
・類似業種比準価額:2,203円
・純資産価額:6,830円
併用法式による評価額は、次の通りです。Lの割合は「中会社の小」のため0.60となります。
- 併用法式による評価額
=2,203円×0.60+6,830円×0.40
=1,321.8円+2,732円
=4,053.8円
=4,053円(※円未満切り捨て)
四捨五入ではなく、円未満切り捨てである点に注意しておいてください。
Lの割合を覚えるために、全てのパターンをやっていきましょう。2021年9月試験です。
・「中会社の中」
・類似業種比準価額:2,255円
・純資産価額:5,670円
併用法式による評価額は、次の通りです。Lの割合は「中会社の中」のため0.75となります。
- 併用法式による評価額
=2,255円×0.75+5,670円×0.25
=1,691.25円+1,417.5円
=3,108.75円
→3,108円
2024年1月試験です。
・「中会社の大」
・類似業種比準価額:1,866円
・純資産価額:2,643円
併用法式による評価額は、次の通りです。Lの割合は「中会社の大」のため0.90となります。
- 併用法式による評価額
=1,866円×0.90+2,643円×0.10
=1,679.4円+264.3円
=1,943.7円
→1,943円
管理人について
・バックグラウンド:株式トレーダー、投資家。副業で投資ライター。
・2022年9月 FP2級資格取得
・2024年7~9月にFP2級問題解説コンテンツの仕事をする。タイムリーにサバンナ八木さんがFP1級取得したというニュースをきっかけに、2024年10月30日からFP1級の学習を始めた。
・使用教材
-テキスト:「2024-2025年版 1級FP技能士(学科)合格テキスト」
-問題集:「2024-2025年版 1級FP技能士(学科)対策問題集」
・使用サイト
–FP1級ドットコム(FP道場)
–1級FP過去問解説
–Youtube「ほんださん / 東大式FPチャンネル」
・学習日程
-2024年10月30日~2025年1月14日:学科対策。毎日1~2時間、問題集を解いて、新しい知識をA4コピー用紙に書いていった。
-1月15日~2月17日:問題集を1から総復習。結構忘れている。1週目と同様に、問題を解く→新しい知識をA4コピー用紙に記載。
※今になって思うと、不動産の譲渡特例や類似業種比準価額などは、応用編から入った方が分かりやすい。勝手に覚えるので。
-2月18日~3月20日:応用対策。問題集で応用編を理解していった。同様に、問題を解く→新しい知識をA4コピー用紙にまとめノート。
-3月21日~3月29日。応用編の総復習。
-3月30日~4月24日:学科の復習(問題集3周目)と応用の過去問演習(FP道場 ライフ・金融・タックス/不動産・相続で2日で1回分)。同様に、問題を解く→新しい知識をA4コピー用紙にまとめノート(学科と応用は分けた)。
-4月25日~5月24日:学科は過去問演習(FP道場 ライフ・リスク管理・金融/タックス・不動産/相続で2日で1回分)。応用の過去問演習(同様)。問題を解く→新しい知識をA4コピー用紙にまとめノート。
※学科は2025年1月~2020年1月分までの15回分。応用は2025年1月~2017年1月分まで。
※学科は過去問をやらないと対策できない問題が予想以上に多かった。「2024-2025年版 1級FP技能士(学科)対策問題集」だけでは不十分に思った(ただ、土台としては問題なし)。
※応用は最後の10日間で、問題集を復習(3周目)と直近3回分の過去問をやった。
・総学習時間は、2024年11月~3月までが1日1.5時間、2025年4月が1日2時間、2025年5月が1日3時間とすると375時間程度。ただ、私の場合は2024年7~9月にFP2級問題解説コンテンツの仕事をしたことも加味する必要があるかと。
・学習方法
-前日に間違えた問題を復習する。問題を解く→新しい知識をA4コピー用紙に書く。
※徹底したのは、問題集と過去問を軸に覚えること。問題さえ解ければokという方針。とにかく問題を解く。分からなければテキストなどで調べる。それをまとめノートにする。とにかく毎日1~2時間を積み上げていく。そうすると、問題を見ただけで周辺知識からの解説ができるようになっていく。個人的には、まとめノートは作ることそのものに価値があると思います。作ったまとめノートを再度読んでも全く覚えられません。ただ、問題の解説においては役に立ちます。「また、この問題を解く上での解説ノートを作る」といった感覚で作るとよいかもしれません。
-未知の問題が出たら、すぐにテキストで調べる。載ってなければググる。
-概要そのものが分からなければ、ChatGPT(4o以上が望ましい)に歴史や背景から教えてもらう。個人的には、借地借家法の成り立ち、別表四の理解については非常に役に立った。
※問題そのものの解説については、すぐにハルシネーションを起こすため推奨しない。
・試験対策
–「ほんださん / 東大式FPチャンネル」で、試験の傾向や対策などは、絶対に見ておくこと!特に、学科対策がいかに重要かを、他の受験者の経験から学べることが大きい。
・試験結果
2025年5月25日(日)
学科:82点 41/50(ライフ7/8 リスク管理6/7 金融8/9 タックス7/9 不動産7/8 相続6/9)
応用:94点 (ライフ19 金融20 タックス17 不動産19 相続19 計算5完)
合計:176点
※金融資産運用で、非貸借銘柄・ETFの口数・クロージングオークションなど、個人的なボーナス問題が多数出題される豪運が重なった。
実際の点数は172点でした。

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自己採点との差は、ライフプラン・リスク-1点、金融資産運用-2点、タックス-1点。学科は自己採点通りとすると、計算問題でいくつか減点があったのかもしれません(計算問題の答えは小数点含めて全て合っている)。
・試験時の心構え
-よーく問題文を読むこと!問題文をよく読まずに取りこぼしてしまう問題も相当多い。
-計算問題は、1度目は解答用紙に記入し、2度目は問題用紙に解いて計算チェックする。必ず、試験時間中に2回解くこと。
このコンテンツで学習した皆さんが、FP1級試験の応用で計算問題を5完して、無事に合格できることを心から願っています。
FP1級実技試験
2025年9月14日に、日本FP協会のFP1級実技試験を受験したので、追記しておきます。
・使用教材
-「
・使用サイト
–1級FP過去問解説
・学習日程
-2025年6月4日~6月22日 緑本を論述以外1周終わらせた
-2025年6月23日~7月15日 このページを作った
-7月16日~8月13日 論述を含めて緑本を学習
-8月14日~9月7日 「1級FP過去問解説」で2015年分まで10年分の過去問演習、論述
-9月8日 緑本の制度変更についてまとめる
-9月9日~9月13日 論述と緑本の復習
※勉強時間は1日1時間で、最後の1週間だけは2時間程度です。緑本と直近10年分の過去問をやるだけで、相当余裕があった感じです。論述8題(個人情報保護法、金融商品取引法(適合性の原則、投資助言・代理業)、消費者契約法、金融ADR制度、著作権法、税理士法、保険業法)は、試験日に合わせてチマチマと覚えていきました。
※私は2015年までの過去問をやりましたが、重複する問題が非常に多いため、緑本さえやっておけば大丈夫かと思います。
・試験結果
2025年9月14日(日)
非常に難化しました。試験中は、「日本FP協会は何を考えてるんだ!学科を突破してきた時点で、緑本を緩く覚えてくるだけで十分だろ!」と憤慨していました。緑本と論述に加えて、学科の知識があって乗り越えられた感じです。
-自己採点
・前半:6+(3/4)+論述
・後半:6+(2/3)+(2/4)
70~75点。ただ、解答が出て自己採点するまでは気が気でありませんでした。試験中は日本FP協会に憤慨していましたが、良問であったことは確かです。試験翌日、学科のテキストを見直してみると、全ての問題がちゃんと載っていました。個人的には、前納保険料は相続税に含める、固定資産税、物納の優先順位、死亡保険金の非課税の按分は、学科の知識が残っていたから解けた問題です(相続時精算課税制度もテキストに載っていましたが初見では無理かと)。
学科については学習コンテンツが充実してきていることもあり、今後は実技の難化傾向が続く可能性は高いと思います。ただ、学科の知識がしっかりあった上で、緑本を固めておけば解ける問題であることは確かです。
受験生にできることは、学科をしっかりと突破した上で、緑本と論述をしっかりと固めて挑むしかないと思います。
私も、採点前には「もし落ちてたらどうすんべ……」と思っていましたが、「緑本を固めて、またチャレンジするしかねえわ」と開き直っていました(実際、それしかできることはありません)。
・試験結果
79/100

251115012518977
自己採点は(13.9/19)+論述。69.5/95とすると、論述は10点とするとほぼピッタリ。となると、実質105点満点でしょうか?









